不動産投資による節税とは?節税の仕組みや注意点を詳しく解説

 

この記事の目次

不動産投資は、長期的に安定したインカムゲインを得られることから人気のある投資手法です。

もっとも、最近では不動産投資そのものの収益だけではなく、不動産投資をすることによる節税効果に注目する投資家が増えています。

特に、会社員が給与所得に課される税額を抑えるために不動産投資を行う事例をよく目にするようになりました。

そこで、節税を目的として不動産投資を検討している方向けに、不動産投資による節税の仕組みや注意点について解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 不動産投資による節税とは減価償却費の計上によるもの
  • 減価償却を利用した節税メリットを得られるのは給与所得がある程度多い人
  • ワンルームマンション投資は不動産投資による節税には向かない

1.不動産投資により節税できる税金

会社員が不動産投資によって節税を狙う場合に、節税の対象となる税金は所得税と住民税です。個人の収入に対して課税されるものが不動産投資による節税の対象といえます。

所得税や住民税以外に、不動産を購入することによって相続税を節税する手法を聞いたことがあるかもしれません。

相続税の課税対象としては、金額が同じであれば預貯金よりも不動産の相続税評価額が低いことから可能となる節税方法です。

相続税の金額は、相続税評価額から各種控除を差し引いた額に一定の相続税率を乗じて計算されます。

したがって、相続税評価額が低いほど、納付すべき相続税の金額は低くなるのです。

預貯金の場合には、額面通りの金額が相続税評価額となります。

これに対し、同じ金額で不動産を購入した場合には、単純に不動産の購入金額が相続税評価額となるのではありません。

土地の場合には路線価により相続税評価額が算定されるところ、一般的に、路線価は不動産の時価の8割程度となっているためです。

これに加え、土地上に賃貸マンションを建設している場合にはその分の評価損が加味されるため、路線価よりもさらに相続税評価額が抑えられることになります。

もっとも、不動産投資により節税を考えている会社員の方は、所得税や住民税の節税に主眼がありますので、以下では不動産投資を活用した所得税と住民税の節税方法について詳しく解説します。

2.不動産投資による節税の仕組み1:減価償却による赤字の利用

不動産投資により所得税と住民税を節税する手法とは減価償却を利用した節税です。

2-1.減価償却による赤字との損益通算

減価償却費とは、固定資産を使用可能な期間にわたり少しずつ経費計上する会計処理の方法です。

減価償却による経費計上はあくまでも会計上のものに過ぎないため、現実に経費としての支出を伴わない点にポイントがあります。

不動産投資について、この減価償却費としての経費計上を行うことで、会計上の赤字を作り、これを本業の給与所得などと損益通算することにより、本業についてかかる税額を圧縮するというのが基本的な節税スキームです。

なぜ減価償却という会計処理が認められているのかというと、減価償却の対象となる資産からは、購入した年だけでなくその後も利益を得ているにもかかわらず購入に要する費用の経費計上が購入した年に集中すると、会計上、経費の支出と対応する利益のバランスが悪くなり、実態に合わないためです。

このため、減価償却の対象となる資産を購入した場合には、その資産が利益を生む一定の期間(耐用年数)中に均等に経費を支出した扱いにします。これが減価償却の考え方です。

なお、不動産で減価償却の対象となるのは建物だけであり、土地は減価償却ができない点に注意が必要です。

不動産投資において減価償却によって会計上の赤字が出ると、これを本業の所得と通算することができます。これを損益通算といいます。

本業の所得と損益通算できるのは、総合課税の対象となる所得であるところ、不動産所得は給与所得と損益通算が可能な所得の一つです。

例えば、減価償却の利用により不動産投資について200万円の会計上の赤字が出た場合、給与所得が1000万円であれば、損益通算により、所得を800万円として税額が計算されることになります。

2-2.減価償却による節税効果が期待できる給与所得

次に、不動産投資により現実にどの程度節税できるのかを確認しつつ、減価償却を利用した節税のメリットを得るために必要となる給与所得を見ていきましょう。

現実の節税額を正確に知るためには、投資対象の不動産を売却した際の譲渡にかかる税金まで加味する必要があります。

不動産を譲渡した際にかかる税金は、長期譲渡所得と短期譲渡所得の2種類があります。

長期譲渡所得とは、不動産を売却した年の1月1日時点で当該不動産の所有期間が5年を超えるものをいい、所有期間が5年以下のものを短期譲渡所得といいます。

それぞれの譲渡所得の税率は、以下のとおりです(2020年10月21日時点)。

区分 所得税 住民税 合計
長期譲渡所得 15% 5% 20%
短期譲渡所得 30% 9% 39%

※国税庁HP掲載の表を基に作成

減価償却により不動産の保有期間中に所得税と住民税を節税できたとしても、不動産を売却する際の譲渡所得税が減価償却による節税額を上回るのであれば、トータルでみたときに節税に成功したとは言い難いです。

給与所得にかかる税金のうち住民税の税率は自治体により異なりますが、多くは一律10%です。

これに対し、所得税の税率は5%から45%まで大きな開きがあります(2020年10月21日時点)。

不動産投資により節税が可能となるためには最低限、住民税の税率と所得税の税率を合算したものが譲渡所得税の税率を上回ることが必要です。

また、この税率の差が大きければ大きいほど、不動産投資による節税効果が高いということができます。

所得税と住民税の税率は以下のとおりです(2020年10月21日時点)。

課税される所得金額 所得税率 住民税税率 合計
1,000円から
1,949,000円まで
5% 10% 15%
1,950,000円から
3,299,000円まで
10% 20%
3,300,000円から
6,949,000円まで
20% 30%
6,950,000円から
8,999,000円まで
23% 33%
9,000,000円から
17,999,000円まで
33% 43%
18,000,000円から
39,999,000円まで
40% 50%
40,000,000円以上 45% 55%

※国税庁タックスアンサーNo.2260掲載の表を基に作成

上の表をみると、長期譲渡所得税20%を上回るのは、給与所得330万円以上です。

給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出されるため、いわゆる年収額とは異なります。

給与所得が330万円となる年収額は、保険料や家族の人数などにもよりますが600~700万円程度となることが多いでしょう。

もっとも、給与所得330万円の場合には節税額はそれほど大きくはなりません。

まとまった額の節税が可能となるのは税率差が更に大きくなる給与所得900万円以上となり、会社員としてはかなり限られた人たちということになります。

2-3.減価償却による節税に適した不動産

減価償却による節税効果を確実に得るためには、本業の給与所得だけではなく、投資対象とする不動産の選定にも注意をする必要があります。

不動産投資による節税は減価償却による会計上の赤字が大きく計上できればできるほど、節税効果が高まります。

したがって、不動産投資によって大きな節税効果を得るためには、減価償却費の大きい不動産を選定することが重要です。

どの程度の減価償却費が計上できるかを知るためには、減価償却の計算方法を知っておく必要があります。

減価償却の計算方法には定率法と定額法の2種類がありますが、建物については定額法で計算するほうが望ましいとされていますので、以下では定額法で説明します。

定額法による建物の減価償却費は、以下の計算式で求められます。

  • 減価償却費(年)=建物の取得価額÷耐用年数

建物に適用される耐用年数は、建物の構造や用途等により細かく定められています。

減価償却費を大きく取るためには、耐用年数の短い不動産に投資する必要があります。

耐用年数が短く減価償却を利用した節税効果が大きいと言われているのが、木造で築年数が経過している建物です。

例えば、構造が木造・合成樹脂造で用途が店舗用・住宅用のものは、耐用年数が22年です。鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造で住宅用のものの耐用年数が47年であることと比較すると耐用年数としては相当短いです(耐用年数は2020年10月21日時点のもの)。

また、築年数が経過していて既に法定耐用年数が経過している建物については、法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とすることができます。

したがって、木造の住居用建物の法定耐用年数がすべて経過している場合には、耐用年数は4年となります(22年×20%=4.4年 ※2年以上の場合は端数切捨て)。

これに対し、ワンルームマンション(区分マンション)は減価償却期間が長く節税には不向きです。

ワンルームマンションは通常RC造(鉄筋コンクリート造)であり前述のとおり法定耐用年数は47年と長いためです。

ワンルームマンション投資の減価償却で節税になっているものの多くはキャッシュフローで赤字となるケースでしょう。

不動産業者によっては減価償却を利用した節税方法ではなく、単純に交際費等を多く計上することや、そもそもの収益性が悪く収支が赤字となる物件を購入させることを、「不動産投資を利用した節税」であると称して営業活動をしていることがあるため注意が必要です。

このような節税は現実の支出を伴いますので、節税効果よりもキャッシュアウトで損をする方が大きく節税目的の投資対象としては不適格です。

2-4.物件売却タイミングに注意

不動産投資による節税効果を得るためには、物件の売却タイミングにも注意が必要です。

減価償却の期間が終了すると減価償却費が経費計上できなくなるため、課税所得が大きくなり所得税と住民税が一気に増えます。

したがって、減価償却期間が終了したら物件を売却する必要があるのです。もっとも、前述のとおり、不動産の売却時にかかる譲渡税には短期と長期があり税率が大きく異なります。

このため、売却タイミングを決定するには長期譲渡所得の対象となる時期であるかも考慮する必要があるでしょう。

不動産投資による節税を適切に行うためには、物件を取得する前に税金面を含めたキャッシュフローを十分にシミュレーションし、売却までの計画を立てておくことが大切です。

3.不動産投資による節税の仕組み2:法人化による節税

減価償却を利用しても会計上の赤字が出ない物件は、法人化して法人の事業として不動産投資をする節税手法もあります。

株式会社や合同会社の法人税率は、2020年10月21日時点で最高税率が23.20%であり、給与所得が900万円を超える場合には所得税率33%より低くなります。

法人化による節税は、このような法人税と所得税の税率差を利用した節税手法です。

4.まとめ

不動産投資を活用した節税をするためには、不動産そのものの収益のほかに税金等の計算も緻密に行うことが必要です。

また、売却タイミングが少しずれると節税メリットが享受できないこともあります。

そもそも、不動産の場合には、それほど流動性が高くはないため予定したタイミングで売却できる保証はないことも理解した上で、節税を目的とした不動産投資を行うことが大切です。


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