地上権と賃借権の違いとは?不動産投資と借地権について解説

 

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不動産投資用に購入する不動産の土地の権利が借地権というケースはよくあります。

このため、借地権と所有権の違いは理解している方は多いのではないでしょうか。

ただ、借地権は細かく見るとさまざまな種類にわかれています。

例えば、居住用不動産の場合、大部分の土地の権利は賃借権です。

これに対し、太陽光発電設備を設置する際には土地に地上権が設定されていることがあります。

そこで今回は、借地権の種類のうち地上権と賃借権の違いについて解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 長期的に土地を利用することが想定されるケースでは地上権が設定されていることが多い
  • 建物の所有を目的とした借地権の大部分が賃借権となっている
  • 土地の権利が賃借権だと取得コストは低いものの、地主への承諾料の支払いなど特有の負担が発生する

1.地上権と賃借権

不動産投資によって建物を取得する場合、建物の建っている土地が「借地」というケースがあります。借地とは、地主が建物所有者のために「借地権」を設定しているものです。

借地権を設定されている土地を「底地」と呼び、その地主の権利を「底地権」などと呼ぶことが一般的です。

ここでいう借地権には、大きく分けて地上権と賃借権の2種類があります。

借地権 地上権 工作物又は竹木を所有するため他人の土地を使用収益することを目的とした権利(物権)
賃借権 賃貸借契約に基づき賃借人が土地を使用収益できる権利(債権)

以下では、地上権と賃借権の意味について説明します。

1-1.地上権とは

「地上権」は、工作物又は竹木を所有するため他人の土地を使用収益することを目的とした権利です。建物はここでいう「工作物」に含まれます。

建物を建てる目的以外にも、太陽光発電パネルを設置するために土地に地上権が設定されることがあります。

このほか、土地の地下に地下鉄が通っている場合にも、土地の所有者が鉄道会社に借地権を設定することも多いでしょう。

地下鉄や太陽光発電設備のように、長期的に土地を利用することが想定されるケースでは地上権が設定されていることがしばしば見られます。

他方、戸建住宅のような個人が居住用に借地権を設定するケースでは地上権とすることはあまりないのが実情です。

地上権は、次に説明する賃借権とは異なり「物権」と呼ばれる権利です。

土地という「物」に対して直接権利を持つものであることから、地上権を設定した地主の承諾なく地上権の譲渡や転貸ができます。

このため、地上権のほうが、土地を借りる側にとっては自由に土地を利用しやすいといえます。

なお、太陽光発電設備の設置など長期的な利用のため地上権を設定する際には特に、借りる土地だけでなく周辺地域など、環境への影響も考える必要があるでしょう。

1-2.貸借権とは

土地の賃借権とは、賃貸借契約に基づき賃借人が土地を使用収益できる権利です。

賃貸マンションなどの賃貸と法的には同じものです。建物所有を目的とした借地権の大部分が賃借権といわれています。

賃借権は、物権である地上権と異なり「債権」に分類されます。

「債権である」とは、物権と異なり「人」に対する権利であるということです。一般的に、債権は物権よりも権利としては弱いとされます。

なお、賃借権は賃料の支払いをしていること、つまり有償で借りていることが前提となる権利です。

土地を無償で借りているという場合には、法的には賃借権ではなく「使用貸借権」という扱いになります。

使用貸借権は賃借権と比べて借主があまり保護されません。

例えば、借地人は借地上に建てた借地人名義の建物についての登記をしていれば、借地権を有することを第三者に主張することができます。

これに対して、地代を支払っておらず使用貸借権と評価される借地権については、第三者に借地権を主張することのできる制度がそもそも用意されていません。

2.地上権と賃借権の共通点

地上権と賃借権の共通点は、土地を利用する権利であるという点です。

地上権と賃借権のいずれでも、建物所有を目的とするのであれば借地借家法の適用があります。借地借家法は借主を保護することを目的とした法律ですので、地上権でも賃借権でも借主は保護を受けることができます。

3.地上権と賃借権の違い

地上権と賃借権の違いは、上でも説明したように物権と債権という法的な性質の違いから生じます。

3-1.転貸などへの地主の承諾

地上権と賃借権とを比較すると、地上権の方が借地人の権利として強いことは上でも説明したとおりです。

具体的には、地上権であれば原則として地主の承諾なく土地の転貸や借地権の譲渡などができます。

これに対して、賃借権では地主に無断で借地を転貸すると契約違反となり借地契約が解除されることがあります。

3-2.承諾料などの支払い

土地の権利が賃借権である場合には、建物の増改築などを行う際に地主から承諾を得るために承諾料の支払いが必要なことが多いです。また、更新時期が到来すると更新料を請求されることもあります。

地主に対する承諾料や更新料などの支払いの有無は、本来は地主との借地契約によって決まります。もっとも、賃借権であれば、借地契約に承諾料の支払いについて定められていることが通常です。

これに対し、地上権はあくまでも土地という「物」に対する権利であるため、「人」である地主から承諾を得ることなく土地を自由に利用できることが一般的です。

このため、借地契約においても承諾料などの定めは通常ありません。

4.不動産投資における借地権のメリット・デメリット

地上権と賃借権のいずれも「借地権」であることには違いありません。そこで最後に、不動産投資において借地権を設定することのメリットとデメリットについてまとめておきます。

4-1.借地権のメリット

まずは土地の権利が借地権であることのメリットについて見ていきましょう。

4-1-1.取得コストを抑えられる

借地権と対比される権利として「所有権」があります。所有権はご存知のとおり、権利者が土地の利用や処分について完全に自由に決めることができるものです。

これに対して、借地権は土地を利用する権利に過ぎません。

したがって、借地権の場合には土地の売却などの処分を自由にできませんし、借地上における増改築や借地権譲渡などの際には承諾料の支払いを求められるなどの負担があります。

その分、借地権は所有権よりも不動産の取得コストをおさえられるというメリットがあります。

一般的に、借地権の価格は所有権の価格の60〜70%です。したがって、例えば区分所有マンションの価格設定では、土地の権利が借地権であれば、土地が所有権である同等のマンションよりもリーズナブルになる傾向です。

このため、不動産投資にかかる初期費用を少しでも節約したいという場合には、土地の権利が借地権となっている不動産は魅力的な選択肢といえます。

特に都心部など不動産価格が上昇し続けている物件に投資する場合には、利回りを考えると借地権の物件しか選択の余地がないということがあり得ます。

4-1-2.税負担が軽い

このほか、借地権のメリットとして税金の負担が軽いことも挙げられます。

土地の権利が所有権の場合には不動産の購入時に不動産取得税が課税されますが、借地権の場合には不動産取得税は課税されません。

また、不動産を取得したあとの賃貸中に発生する固定資産税及び都市計画税についても、借地権であれば課税されないのです。

立地や設備などが同等の条件であれば、賃貸に回したときの賃料収入自体は所有権でも借地権でも大きく変わることはありません。

したがって、固定資産税等の税負担を削減できる借地権の取得は、不動産投資家にとって手元に利益を残しやすい投資の方法といえます。

ただし、固定資産税及び都市計画税が課税されない代わりに、地主に支払う地代が発生することを忘れてはいけません。

借地権を投資対象とする場合には地代を含めて利益をシミュレーションしておくことが大切です。なお、地代については経費計上が可能です。

4-2.借地権のデメリット

一方、借地権にはもちろんデメリットもあります。

4-2-1.ローンが組みにくい

不動産投資家は物件の取得時に投資用ローンを組むことがよくあります。

ところが、土地の権利が借地権の不動産の場合、担保価値が低いとして金融機関でローンを組めないことがあります。

4-2-2.地主の承諾が必要

借地権については建物の増改築などの際に地主の承諾が必要です。

高額の承諾料の支払いが求められることも珍しくありません。そのため、承諾料の金額について地主との間でトラブルとなることもしばしばあり、増改築などがなかなか進まないという事態も想定されます。

金額や支払い条件については借地契約の内容によって大きく異なりますし、地主との信頼関係も重要です。借地権が設定されている不動産に投資する場合には借地契約の条件を事前によく確認しておくことが大切です。

5.まとめ

借地権とひとことで言っても、その種類はたくさんあります。

今回解説した賃借権と地上権の他にも、借地借家法が適用されるのかによっても権利の内容は異なりますし、通常の賃貸借契約とは異なる「定期借地権」という類型の借地権も最近増えています。

借地に関する権利関係は非常に複雑で、またトラブルも生じやすいものです。

不動産投資用として購入する物件の土地の権利が借地権である場合には、十分に権利の内容を理解しておく必要があります。


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