相続放棄とは何か?相続放棄をすべきケースや手続について解説

 

この記事の目次

親族が亡くなって相続人となった場合、3ヶ月以内に相続するかしないかを判断しなければなりません

亡くなった人が事業をしていた場合や不動産投資をしていた場合などでは、多額の借金が残っていることがよくあります。

このようなケースでは相続しないほうが良いこともあるでしょう。

相続しないと判断した場合、家庭裁判所において「相続放棄」のための手続きを行う必要があります。

そこで、相続放棄について、具体的な手続きの方法を含めて解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 相続放棄とは亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がないこと
  • 相続放棄をする典型的場面は負債が財産を明らかに上回っているケース
  • 相続放棄をするには3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述する必要がある

1.相続放棄とは

「相続放棄」は親族が亡くなり相続人となった人が取りうる選択肢の一つです。

「相続放棄」とは何か、相続放棄をするとどうなるのかなどについて説明します。

1-1.相続が発生した場合の対応は3つ

近しい親族などが亡くなって自分が相続人となった場合の対応として、民法上、次の3つがあります。

  • 単純承認
  • 相続放棄
  • 限定承認

単純承認

人が亡くなると、遺言で指定された者や民法上定められた者が相続人となります。

相続人は原則として、亡くなった人の財産や負債をすべて承継します。 これが「単純承認」です。

単純承認は相続人が亡くなった人(被相続人)の土地所有権や預貯金などプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産を含めてすべて受け継ぐ点がポイントです。

次に説明する相続放棄や限定承認の手続きを期限内に行わなければ、自動的に単純承認したことになります。

亡くなった人が多額の借金を抱えていた場合、相続人がすべて返済の義務を負うとなれば大変な負担です。

そこで、亡くなった人の財産や負債の全部又は一部を受け継がない方法が認められています。

これが「相続放棄」と「限定承認」です。

相続放棄

「相続放棄」とは、相続人が亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がないことをいいます。

相続放棄をするか否かは、相続人各自が自由に選択できます。

相続放棄は亡くなった人の負債から相続人を解放することが目的であり、相続人にとっては重要な制度です。

相続人のうち一人でも反対したら相続放棄ができないとなれば、相続放棄が制度として定められた目的を達成できません。

このため、他の相続人の同意がなくても各自が相続放棄できるような仕組みとなっています。

限定承認

「限定承認」とは、相続人が相続によって得たプラスの財産の限度で、亡くなった人の借金などマイナスの財産を受け継ぐものをいいます。

限定承認は一見すると合理的な制度ですが、実際に限定承認を行うための手続きは煩雑です。このため、実際にはあまり利用されていないというのが現状です。

限定承認を行う場合、相続放棄とは異なり、相続人全員が共同して限定承認の申述をする必要があることも大きなハードルとなっています。

相続人の一人が反対している場合や手続きへの協力を得られないケースでは、限定承認を選択できないのです。

以上から、亡くなった人の借金が相当額にのぼる可能性があるという場合、限定承認よりも相続放棄が利用されるケースが多いといえます。

1-2.相続放棄をするとどうなる?

相続放棄をした場合、相続人としての一切の立場を失います。

他の相続人が行う遺産分割協議には参加できませんし、亡くなった人が所有していた自宅などの所有権を主張することもできません。

その代わり、亡くなった人の借金などを支払う義務も負いません。

なお、相続人が相続放棄をした場合、他にも相続人がいるのであれば、他の相続人に相続放棄をした人の相続分が帰属することになります。

他に相続人がいない状態で相続放棄をすると、亡くなった人の負債を清算したうえで、残余財産が国庫に帰属します。

2.相続放棄をした方がよいケースとは?

相続放棄が行われる場面としてよくあるのが以下の3つです。

それぞれのケースについて解説します。

  • マイナスの財産がプラスの財産を上回っているケース
  • 事業の後継者に財産を集中させる必要があるケース
  • 相続争いに巻き込まれたくないケース

2-1.マイナスの財産がプラスの財産を上回っているケース

相続放棄をすべき典型的な場面は、マイナスの財産がプラスの財産を明らかに上回っているというケースです。

例えば、不動産投資で投資用物件の購入費用として多額の借り入れを行っていることがあります。不動産投資をしていた親族などが亡くなった時点でその借金が、不動産価格やその他の資産を上回っていることはよくあります。

この場合に相続人の判断次第で相続放棄を行うこともあり得るのです。

負債がなかったとしても、相続財産が不動産である場合に相続人の現住所から遠く管理が大変というときや、多額の相続税の支払いが必要なため相続するデメリットが大きい、というときにも相続放棄を選択することがあります。

反対に、借金が明らかに上回るとしても先祖代々の土地を手放したくない、思い出のある自宅を手放したくない、などの理由で相続放棄をしないことも当然あります。

相続放棄をするか否かは、相続した場合のメリットとデメリットをよく検討して、各相続人が自分の考えで判断する必要があるでしょう。

2-2.事業の後継者に財産を集中させる必要があるケース

亡くなった人が不動産投資や会社経営などの事業をしていて、一人の後継者に事業用の財産や会社の株式などをすべて承継したいというケースがあります。

この場合、後継者とならない相続人がお互いに納得のうえで相続放棄をすることがあります。

ただし、相続放棄は生前(実際に相続が発生する前)に行うことはできません。

事業上の都合によって確実に後継者だけに事業用の財産を引き継がせたいという場合には、相続対策を行うべきです。

一般的には、後継者一人に事業用のすべての財産や株式を相続させる旨の遺言を作成したうえで、他の相続人となるべき者には「遺留分放棄」の手続きをしてもらいます。

遺留分放棄の手続きは、相続放棄と異なり、生前に行うことができます。

ただし、生前に相続対策をする場合であっても、相続発生後に他の相続人と後継者との間でトラブルが発生しないよう、丁寧に説明して理解を得ておくことが大切です。

なお、事業上の理由でなくとも、例えば障害のある兄弟姉妹に全財産を残してあげたいなどの理由により、家族で話し合って相続放棄に至ることもあります。

2-3.相続争いに巻き込まれたくないケース

相続放棄を考える人には、相続争いに巻き込まれたくないという気持ちをもつ人も少なくありません。

「骨肉の争い」ともいわれるような激しい相続争いが繰り広げられることになれば、数年に渡り裁判所の調停や手続きに対応しなければなりません。

また、親族間の感情的対立が強い場合、そこに加わること自体が精神的負担となります。

相続によって得られる財産よりも、相続争いに巻き込まれるデメリットの方が大きいと判断すれば、相続放棄は一つの選択肢となります。

3.相続放棄をするための手続き

相続放棄をするためには、決められた期限内に裁判所で手続きを行う必要があります。

手続きの期間や方法は厳格に決められているため、事前に十分に確認しておくことが必要です。

3-1.家庭裁判所への相続放棄の申述

相続放棄をしたい相続人は、家庭裁判所に対して相続放棄の申述という手続きを行う必要があります。

相続放棄の申述は「熟慮期間」と呼ばれる「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月」以内に行わなければなりません。

もっとも、亡くなった人が生前に不動産投資や会社経営などの事業を行っていた場合、3ヶ月の熟慮期間内に財産や負債の調査が終わらないこともあります。

熟慮期間内に相続財産の状況を調査したものの、相続を承認するか放棄するか判断できるだけの資料が揃っていない場合、家庭裁判所に対して相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てることが可能です。

ただし、この相続の承認又は放棄の期間の伸長の申し立ては3ヶ月の熟慮期間内に行う必要があります。

相続放棄の熟慮期間を過ぎた後でも、家庭裁判所の判断によって相続放棄が認められることはありますが、認められるための要件はかなり厳しくなります。

やむを得ない理由がない限りは3ヶ月の熟慮期間を厳守することが重要です。

相続放棄の申述を行う場所は、亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

相続放棄の申述のために必要となる基本的な書類としては、以下のものがあります。

  • 裁判所が用意している相続放棄の申述書
  • 亡くなった人の住民票除票又は戸籍附票
  • 相続放棄をする人の戸籍謄本

このほか、相続放棄をする相続人の順位に応じて上記とは別に必要書類が定められています。

どのような書類が必要になるかは、時間に余裕を持って管轄する家庭裁判所に確認をしておきましょう。

3-2.相続放棄の申述後の流れ

相続放棄の申述が家庭裁判所に受理されると、相続放棄の効力が発生します。

もっとも、裁判所が個別に相続人や債権者に相続放棄をしたことを伝えてくれるわけではありません。

相続放棄をした人は他の相続人に相続放棄をしたことを伝える必要があります。

相続放棄をした人が管理している相続財産がある場合、他の相続人に引き継ぎを行わなければなりません。

亡くなった人に借金などがあった場合、債権者に対して相続放棄をしたことを伝えれば、取り立てなどに対応する必要がなくなります。

4.まとめ

生前から借金があることがわかっている場合、相続人としては相続放棄をするつもりでいることも多いでしょう。

ただし、相続放棄は3ヶ月の期間内に家庭裁判所へ必要書類を提出して、手続きを行う必要があります。

親族が亡くなるとしばらくは様々な手続きに追われるため、気づいたら3ヶ月が経過していて相続放棄できなかった、という事態が起こりがちです。

そのようなことにならないように、相続に関して早めに準備を進めておくことが重要です。


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