相続における限定承認とは?利用すべきケースや手続きの方法を紹介

 

この記事の目次

親族が亡くなると、悲しむ間もなく様々な手続きが発生します。

とくに被相続人(亡くなった人)に財産や借金がある場合、相続するか否かを考える必要もあります。

「相続」というと不動産や預貯金などプラスの財産をイメージしますが、実際には借金などのマイナスの財産も相続人は引き継がなければなりません。

借金を引き継ぎたくない場合に利用できる制度の一つに「限定承認」があります。

そこで「限定承認」とは何か、利用すべきケースなどについて解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 限定承認とは相続によって得たプラスの財産の限度で、マイナスの財産を受け継ぐこと
  • 限定承認は相続人全員が共同で行う必要がある
  • 限定承認の申述は3ヶ月の熟慮期間内に家庭裁判所に対して行う必要がある

1.相続時に選択できる選択肢

相続が発生したとき、相続人には3つの選択肢があります。

  • 相続放棄
  • 単純承認
  • 限定承認

このうち「相続放棄」とは相続人が亡くなった人のプラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がないことです。

「単純承認」は亡くなった人の財産や負債をすべて承継することをいいます。

期限内に相続放棄又は限定承認を選択しなかった場合、自動的に単純承認したことになります。

「限定承認」とは、相続人が相続によって得たプラスの財産の限度で、被相続人の債務(マイナスの財産)を受け継ぐことです。

1-1.限定承認とは

限定承認について、例えを挙げて説明します。

相続財産がプラスの財産である4,000万円相当の土地と、マイナスの財産である借金5,500万円であるケースを考えてみましょう。

このケースにおいて限定承認をすると、相続人はプラスの財産に相当する4,000万円の範囲内でのみ、借金の返済義務を負います。

相続人は4,000万円を借金の債権者に支払えば、プラスの財産である土地全体を受け継げ、残りの1,500万円の借金返済義務もなくなります。

限定承認は相続人にとって一見合理的にみえる制度です。

しかし、実際に限定承認が利用されることはあまりありません。

その理由として、手続きが面倒などといった問題が指摘されています。

1-2.限定承認と相続放棄の違い

被相続人に借金などマイナスの財産がある場合、相続放棄か限定承認が検討されます。

限定承認と相続放棄の違いは主に次の3点です。

  限定承認 相続放棄
申述を行う人 相続人全員が共同で申述 相続人が単独で申述可能
法的効果 プラスの財産の範囲でマイナスの財産を受け継ぐ 清算手続きが必要
申述受理後の手続き 清算手続きが必要 相続財産を一切受け継がない

2.限定承認のメリット・デメリット

限定承認は手続き上のデメリットのため、あまり利用されていません。

しかしながら、相続財産の内容次第では利用するメリットが大きい制度です。 そこで、限定承認のメリットとデメリットを説明しま/す。

2-1.限定承認の2つのメリット

限定承認には大きく分けて2つのメリットがあります。

プラスの財産を超える負債を承継しない

限定承認を選択すると、相続人は相続財産のうち、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を支払えば足りることになります。

経済的にみると、相続財産の範囲内で負債が清算されるため、相続人の固有財産を被相続人の負債の支払いに充てる必要が生じません。

先買権により特定の財産を残せる

限定承認では「先買権」という制度を利用できます。

先買権とは、受け継ぎたい特定の財産がある場合に家庭裁判所が専任する鑑定人による評価額を支払えば、その財産を相続できるという制度です。

例えば、被相続人に多額の負債があるももの、先祖代々の家宝などのどうしても残したい財産がある場合、先買権を利用するために限定承認を選択することがあります。

ただし、先買権を利用するためには対象となる財産について、鑑定評価額を支払わなければなりません。

このため、経済的価値の高い財産を先買権によって取得したい場合、ある程度まとまった資金を用意する必要があります。

2-2.限定承認の2つのデメリット

限定承認には大きく分けて次の2つのデメリットがあります。

限定承認の手続きが煩雑

限定承認があまり利用されない理由の一つに、限定承認の手続きが煩雑という事情があります。

限定承認を選択すると、家庭裁判所において「申述」という手続きを行う必要があります。

限定承認の申述をする場合、相続財産についての財産目録を作成しなければなりません。

相続財産に建物があれば、所在・家屋番号・構造・床面積などを記載して一覧化します。

不動産のほか、貴金属や有価証券など財産的価値のあるものについても全て財産目録に記載しなければなりません。

被相続人に複数の資産があった場合、相続財産の調査だけでも大変な手間がかかります。

限定承認の申述は相続人の負担が大きいのです。

また、限定承認の申述が家庭裁判所に受理された後も、官報への公告手続きや相続財産の清算手続きを法律にのっとって処理する必要があります。

相続人全員の同意が必要

限定承認の際にハードルになるのは、相続人全員が共同で行う必要がある点です。

相続人のうち一人でも限定承認に反対している場合や、連絡が取れずに手続きの協力を得られない場合、限定承認を選択することができません。

相続人が複数いる場合、相続人ごとに思惑が異なることがよくあります。

限定承認を利用したいと思っても、相続人の足並みが揃わずに利用できないことが多いのです。

これに対して、相続放棄の場合には各相続人が単独で申述できるため、他の相続人の意向に左右されることはありません。

3.限定承認を選択すべき3つのケース

限定承認にはメリットもデメリットもあります。

それでも、限定承認を利用した方がよい代表的なケースを3つ取りあげます。

3-1.相続財産の全体像がはっきりしないケース

一般的に限定承認の利用が適しているのは、相続財産の範囲が広く、プラスの財産とマイナスの財産が明確に把握できない場合です。

とくに被相続人が事業用のローンを組んで不動産投資をしていた場合や、会社経営などの事業を行っていた場合、後から多額の負債が発覚することがあります。

このような場合に限定承認を選択することで、想定外の負債が明らかになったとしても、相続人自身の財産で被相続人の負債を支払わなければならない事態を回避できます。

3-2.特定の財産を残したいケース

先買権の制度を利用すると、特定の財産を相続人の手元に残すことができます。

多額の負債があっても残したい財産がある場合、限定承認を選択するメリットがあるでしょう。

なお、被相続人に負債がほとんどない場合や、あったとしても相続人が支払える場合には単純承認をすれば足ります。

したがって、先買権を行使するメリットは、相続人が支払いきれない負債がある場合に限られるでしょう。

3-3.事業の再建をしたいケース

被相続人が営んでいた事業を、多額の負債があるものの承継したい場合、債務整理手続きや事業再生手続きなどでなくても、限定承認を行うことで事業上の負債を整理することが一応可能です。

ただし、取引先や金融機関などの債権者からすると債権回収ができないことになりかねません。

安易に限定承認を債務整理に利用すると、取引先などとの信頼関係を損なうリスクがあるため注意が必要です。

4.限定承認の手続き

限定承認を選択する場合、相続人は次の手続きを踏む必要があります。

4-1.限定承認の申述

相続人全員が共同して家庭裁判所に限定承認の「申述」という手続きを行う必要があります。

限定承認の申述をする家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所です。

4-2.限定承認の期限

限定承認の申述手続きは、相続放棄と同様に「熟慮期間」と呼ばれる期限が設けられていることに注意しましょう。

限定承認の期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です。

被相続人が亡くなると、相続以外にも様々な手続きが必要になるため、3ヶ月の期間はあっという間に経過します。

このため被相続人に多額の負債があり、限定承認や相続放棄を視野に入れている場合、ただちに財産状況の調査や他の相続人との協議が必要です。

なお、3ヶ月の熟慮期間内に相続財産の状況を調査しても相続を承認するか放棄するかの判断資料が揃わない場合、熟慮期間内に家庭裁判所に対して期間を伸長する申立てをすることができます。

4-3.限定承認受理後の手続き

家庭裁判所に限定承認の申述が受理された後、相続人は相続財産の清算手続きを行わなければなりません。

具体的には、決められた期間内に限定承認をしたこと及び債権の請求をすべきことの官報公告を行い、その後に支払いや換価などの手続きを行います。

官報公告の期限は、限定承認を行った相続人であれば5日以内、相続財産管理人が選任されている場合には選任後10日以内とされており、スケジュールが非常にタイトになっています。

このため、限定承認が受理される前から官報公告の準備が必要です。

5.まとめ

限定承認は手続きが面倒という事情もあって、あまり利用される機会がありません。

しかしながら、先買権などのあまり知られていないメリットもあります。

相続人全員の協力が得られる状況であれば、限定承認も視野にいれて検討するとよいでしょう。

限定承認は手続き上の負担が重いのですが、司法書士や弁護士などの手続きを代行する専門家もいます。

このような専門家も利用しながら様々な選択肢を検討することが、後悔のない相続につながるといえます。


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