検査済証がない建物を購入するリスクとは?

 

この記事の目次

販売されている中古物件には検査済証のない建物が相当数存在します。

ここで検査済証がない建物というのは、単に検査済証を紛失したということではなく、建築基準法で義務付けられている建物建築後の完了検査を受けていない建物を指しています。

ここ10年以内に建築された建物であれば、完了検査を受けず検査済証のない建物はほとんどありません。

しかし、それより前に建築した建物は完了検査を受けていないものが半数以上ありました。

このような検査済証のない建物を購入することにはどのようなリスクがあるのでしょうか。

不動産取引における検査済証の役割や検査済証のない建物を購入する際の注意点について解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 検査済証とは、完了検査を受けて建物が法令に適合していると認められた場合に交付される書類
  • 検査済証がない建物は、違反建築物でないことを別の方法で証明しなければならない
  • 検査済証があっても違法な増改築等により建物の一部が違反建築物となっていることも

1.検査済証とは

「検査済証」とは建築基準法に基づき、建築工事の完了後に完了検査を受けて建物が法令に適合していると認められた場合に交付される書類です。

そもそも、建物の建築については建築基準法など法令の基準に適合している必要があります。

建物が法令の基準に適合しているかを確認するため、建築工事の過程では、建築確認→中間検査→完了検査の3つが行われます。

なお、中間検査は一定規模以上の鉄骨造や鉄筋コンクリート造など一部の建物についてのみ必要となる検査です。

完了検査は建築工事の終了時点で建築主事又は指定確認審査機関によって行われるもので、建築物が法令に適合していることの確認が目的です。

完了検査に合格すると検査済証の交付を受けることができます。

そして、検査済証の交付を受けてはじめて建築物を使用できるのです。

検査済証があれば、少なくとも建築工事の完了時点では法令に適合する建物であったことが証明できます。

なお、検査済証は再交付されないため大切に保管しましょう。

検査済証を紛失した場合には、市区町村において完了検査を受けたことを証明する書類を作成してくれることがあります。

2.検査済証の役割

検査済証は建物が法令に適合していることを証明する役割があります。

また、検査済証は建築時に交付されますが、建物を売却する際にも違反建築物でないことを証明するために必要となることがあるのです。

そこで次に、違反建築物とはなにか、違反建築物と既存不適格建築物との違いなどを説明します。

2-1.違反建築物とは

「違反建築物」とは、建物の建築当初から法令の基準に適合しない建築物をいいます。

例えば、建築工事前に行った建築確認とは異なる面積や仕様の建物を建てたようなケースです。

通常、このような建物は完了検査を通過しません。

検査済証が存在しないということは完了検査を実施していないということになります。

したがって、違反建築物であることが否定できません。

違反建築物である場合、建物を法令に適合するように是正する必要があります。

実際にはほとんど行われていないものの、行政から建物の除却命令や使用停止命令等が出る可能性がゼロではありません。

そもそも建築確認と異なる建物を建てている以上、耐震性など建物の基本的な安全性に問題があるかもしれません。

このため、検査済証によって法令への適合性が証明できない建物の場合、売却しようとしても買い手がつきにくくなります。

検査済証があっても違反建築物であることも

検査済証が発行されていたとしても、現況の建物が検査済証発行当時の建物と異なっている場合、違反建築物となっている可能性が高いといえます。

よくあるのは、建物の新築当時は適法であり検査済証が発行されたものの、その後に建築確認を経ずに増改築をしたケースなどです。

建築確認時の設計図などと現時点の建物を比較して、図面上存在しないはずの設備や部屋が現存する場合には、その部分が違反建築物である可能性があります。

2-2.既存不適格とは

違反建築物と似て非なる概念として「既存不適格」というものがあります。

既存不適格建築物とは、建築当時の法令には適合していたものの、その後の法改正によって現時点の法令には適合しないこととなった建築物です。

次の表のように、建築当初から違法であったかそうでないかによって違反建築物と既存不適格建築物は区別されます。

  建築当初の適法性 現在の適法性
違反建築物 × ×
既存不適格建築物 ×

建築基準法は地震などの災害や社会状況に対応するため頻繁な改正があります。

このため、築年数の経過した中古物件が既存不適格となっていることは珍しくありません。

例えば、現行の耐震基準を満たしていない「旧耐震」と呼ばれる建物や、現在の基準によれば容積率や建ぺい率オーバーとなる建物などがあります。

既存不適格建築物については、建築基準法により「法制定以前から存在していた建築物には、当該条文を適用しない」とされる結果、現時点でも適法な建築物として取り扱われます。

したがって、違反建築物のようにすぐに是正工事をする必要はありません。

2-3.検査済証は違反建築物でないことを証明

以上のように、不動産取引における検査済証の役割は、建物が建築当初に違反建築物でなかったことを証明することにあります。

検査済証がなければ、違反建築物でないことを証明することは容易ではありません。

そうなると、次に説明するように建物の売却などをする際に大きなハードルとなることがあります。

3.検査済証のない建物

検査済証のない建物にはどのような問題があるのでしょうか。

古い建物には検査済証がないことが多く、中古物件の流通や活用が進まない一因になっているとも指摘されています。

3-1.古い建物は検査済証がないことが多い

検査済証は不動産取引において重要な書類であるという話をしました。

ところが、実際には古い建物は検査済証の交付を受けていないものが多いのです。

建築基準法上、建築確認申請を行った建物の工事を完了したときは完了検査を受けることが義務付けられています。

完了検査に合格した場合には必ず建築主事等から検査済証が交付されます。

今では、ほぼ全件の建築物について完了検査を経て建物が使用されていますが、過去には完了検査の実施が徹底されておらず、完了検査を受けずに建物を使用することが相当数ありました。

次のグラフは、国土交通省が公表している特定行政庁(建築主事)・指定確認検査機関における検査済証交付数・完了検査率の推移です。

出典:国土交通省 効率的かつ実効性ある確認検査制度等のあり方の検討

国土交通省によれば、平成23年度の検査率(当該年度における確認件数に対する当該年度の検査済証交付件数)は、建築主事の場合で87%、指定確認検査機関の場合で91%でした。

これに対し、平成11年度は建築主事で検査率46%、指定確認検査機関で検査率28%しかないのです。

つまり、平成11年以前に建てられた建築物は半数以上が検査済証の交付を受けていないというのが実態です。

3-2.検査済証がない建物のリスク

検査済証のない建築物は建築基準法の手続きに違反するため、コンプラ意識の高い企業は取り扱いを敬遠する傾向があります。

したがって、検査済証のない物件は売却しようとしても買い手がつきにくいことや、成約価格が相場より低くなることがあります。

また、検査済証がない建物は違反建築物でないことを証明する手段がないだけでなく、実際にも建築確認の内容と異なる違反建築物であることが多いのです。

比較的よくあるのが、容積率オーバーや建ぺい率オーバーです。

完了検査を受けないことが横行していた時代には、建築確認よりも大きい建物を建築するということがしばしばあったといいます。

建築工事を発注した施主からすれば、少しでも建物の床面積が広い方がよいため、完了検査により発覚しなければ多少大きめに建物を建てたいと考えたのも無理からぬ話です。

また、建物が違反建築物でなかったとしても、検査済証がなければ法令適合性を証明するための調査にコストが必要になります。

これが建物の売却や増改築などのハードルとなることもあります。

3-3.国土交通省の対応

国土交通省は検査済証のない中古物件の流通を促すため、平成26年7月に「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」を公表しました。

このガイドラインは検査済証のない建築物について、その現況の法適合状況を調査するための方法を示しています。

この調査は建築士等が行い、建築当時の確認済証などの書類に基づく図上調査と現地での調査に基づき、建築基準法適合状況の報告書が作成されます。

このガイドラインに基づく法適合状況調査の報告書は検査済証とみなされるわけではありません。

しかし、既存建築物の増築等において必要となる「既存不適格調書」に添付する資料として活用できることとなっています。

4.まとめ

検査済証は、少なくとも現代においては不動産取引において必須の書類となっています。

もっとも、以前は建物建築後の完了検査を受けておらず検査済証がない物件が相当数あったことは、不動産取引にかかわる場合に知っておいたほうがよい事実でしょう。

また、検査済証があっても、完了検査後の不適法な増改築等により一部が違反建築物となっている物件があることにも注意が必要です。

このような問題は、大手不動産会社が分譲や仲介をしていた建物であれば該当しないというわけでもありません。

したがって、築年数が経過した物件を取引する際には、検査済証の有無や違反建築物ではないかを十分に確認しておくことが大切です。


前へ

不動産投資は割に合わない?|原因と対策を知って賢く管理・運用しよう

次へ

脱炭素化(カーボンニュートラル)をわかりやすく解説!「なぜ注目されているの?」を解消