カーボンニュートラルの基礎知識と、実現に向けた取り組み

 

この記事の目次

国際的にカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが活発化しています。

カーボンニュートラルとはどのような意味でしょうか。

どのような取り組みをおこなっているのでしょうか。

この記事ではカーボンニュートラルの意味と、カーボンニュートラルを目指す理由を解説します。

また、カーボンニュートラルの実現には何が必要なのか、世界や日本での動きや具体的な取り組みを紹介します。

カーボンニュートラルとは何か?

「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素の排出量がプラスマイナスゼロとなる状態を指します。

カーボンとは「炭素」のことで、炭素が酸化したものが二酸化炭素です。

炭素は太古から地表や地中、水中に存在しています。

生物の呼吸や有機物の腐敗などによって二酸化炭素が大気に放出される量と、植物が光合成で二酸化炭素を吸収する量のバランスが、産業革命以前では取れていました。

しかし産業革命以降、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料の利用によって大気中の二酸化炭素の量が急増し、地球温暖化や海洋の酸性化などの環境問題が発生しました。

現在ではこれらの問題による自然災害の多発などで、よりいっそう危機意識が高まっています。

そこで、二酸化炭素の排出量と吸収量のバランスを元に戻すために生まれた概念がカーボンニュートラルです。

なお、二酸化炭素吸収量が排出量を上回る状態を「カーボンポジティブ」、逆に排出量が吸収量を上回る状態を「カーボンネガティブ」といいます。

現在の地球はカーボンネガティブです。

なぜカーボンニュートラルを目指すのか? 地球温暖化問題

年々、地球温暖化問題が緊急性を増しています。

下の図では産業革命以降、世界の二酸化炭素排出量が急激に増加していることが確認できます。

出典:JCCCA 第3作業部会(気候変動の緩和)

また、産業革命が始まった1750年頃の二酸化炭素濃度は約280ppmでしたが、2013年には400ppmを超えました。

二酸化炭素濃度上昇に伴い、地球の平均気温も1880年から2012年の間に0.85℃上昇しています。

このように気温が上昇=地球温暖化が進行しているのです。

地球温暖化が進行すると、異常気象・大気汚染・海洋の酸性化・砂漠化・酸性雨・生態系の破壊など、さまざまな自然災害の増加が想定されています。

日本でも2018年に広島県と岡山県に甚大な被害をもたらした「平成30年7月豪雨」など、地球温暖化の影響が指摘される自然災害が発生しています。

このままさらに地球温暖化が進行した場合、2100年には地球の平均気温が4.8℃上昇する可能性も想定されているのです。

もし地球の平均気温が4.8℃上昇したら、どれほどの自然災害に見舞われるのでしょうか。

私たちは安全に暮らせるのでしょうか。

地球温暖化問題は現在も進行中であり、緊急性がどんどん高まっています。

この問題を改善するためにカーボンニュートラルを目指すのです。

カーボンニュートラル実現には、何が必要なのか?

カーボンニュートラル実現には二酸化炭素の「排出量の削減」と「吸収量の増加」が必要です。実現に向けての要素をご紹介します。

  • 再生可能エネルギーの普及
  • 省エネ
  • 森林再生

再生可能エネルギーの普及

再生可能エネルギーとは太陽光・風力・水力など、発電時に二酸化炭素を排出しないエネルギーのことです。

2012年のFIT制度(再生可能エネルギーの固定買取制度)開始以降、住宅の屋根や野原に太陽光パネルが設置されていたり、風車が回っていたりするところを見る機会が増えたかと思います。

実際に日本の電源構成における再生可能エネルギーの割合は2014年では12.1%だったのに対し、2019年は18.5%に増加しました。

一方で石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料を使った火力発電は2014年では87.9%だったのに対し、2019年は75.0%に減少しました。

再生可能エネルギーを用いた発電を増やすことで、二酸化炭素を排出する化石燃料を用いた火力発電を減らすことができます。

日本政府も再生可能エネルギーの主力電源化を目指していますし、他の先進国も再生可能エネルギーによる発電割合を増やしています。

カーボンニュートラルを実現するには、再生可能エネルギーのさらなる普及が必須です。

省エネ

省エネで電力需要を減らしたり、化石燃料の使用をへらしたりすることも大切です。 ここではCEVとZEHでの省エネをご紹介します。

CEV

CEVとはクリーンエネルギー自動車のことで、電気自動車やプラグインハイブリッド自動車のことを指します。

これらの自動車は電力のみを使って走行する、もしくは電力と化石燃料を使って走行します。

電力を使うことで化石燃料の使用を減らすことができるのです。

国や自治体もCEV普及のために補助金の交付や税制優遇制度などを行っています。

ZEH

ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」のことで、使うエネルギーと創るエネルギーの収支がゼロになることを目指した住宅です。

オール電化・高気密・高断熱の住宅にすることで使うエネルギーを減らし、屋根の太陽光パネルで発電することによりエネルギーを創出します。

住宅で使われる電力が太陽光発電でまかなわれるようになれば、その住宅は化石燃料を使って発電した電力を使用しないことになり、カーボンニュートラルに貢献することになるのです。

森林再生

森林を再生することで二酸化炭素吸収量を増やすことも重要です。

人口増加による木材需要の増加や土地や農地の開発のため、多くの森林が伐採されてきました。

森林が減ることで二酸化炭素吸収量も減少し、乾燥地帯では森林伐採した土地が砂漠化し、森林再生が困難になることもあります。

森林伐採をできるだけ抑えつつ、新たに植樹をして森林を再生することが必要です。

カーボンニュートラル実現へ、世界の動き

カーボンニュートラル実現へ向けて、世界中の国々が動いています。

123カ国・1地域が2050年までのカーボンニュートラルにコミット

世界では123カ国・1地域が2050年までのカーボンニュートラルにコミットしています。

これらの国の2017年の二酸化炭素排出量の合計は、世界全体の二酸化炭素排出量のうち23.2%です。

この123カ国には経済大国であるアメリカと中国は含まれていません。

アメリカがコミットしていないのは、トランプ政権時代に気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」から脱退したことが要因です。

しかし、現在アメリカでバイデン大統領は、コミットしていないものの、2035年の電力脱炭素の達成を目指すなど、地球温暖化問題に取り組む計画を発表しています。

パリ協定に復帰するための文書に署名もしています。

また、中国でも2060年のカーボンニュートラルを目指すと習近平国家主席が表明しました。

このように、世界中の国々が地球温暖化を防止するため、カーボンニュートラルに取り組んでいます。

国内の動き

国内では菅総理が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、参議院本会議にて「気候非常事態宣言決議」が採択されました。

都道府県や市町村などの自治体も、それぞれ2050年のカーボンニュートラルを目指しています。

政府の動き

菅総理は、2020年10月26日の第203回臨時国会で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。

その一部をご紹介します。

菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力して参ります。我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

経済産業省 2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き

そして2020年11月19日衆議院本会議、翌20日の参議院本会議にて「気候非常事態宣言決議」を採択しました。

気候非常事態宣言の一部をご紹介します。

私たちは「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」との認識を世界と共有する。そしてこの危機を克服すべく、一日も早い脱炭素社会の実現に向けて、我が国の経済社会の再設計・取組の抜本的強化を行い、国際社会の名誉ある一員として、それに相応しい取組を、国を挙げて実践していくことを決意する。その第一歩として、ここに国民を代表する国会の総意として気候非常事態を宣言する。

経済産業省 2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き

このように日本政府も地球温暖化問題を「危機」と認識し、国をあげてカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現へ取り組んでいます。

191自治体が、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを表明

2020年12月14日時点で、全国の27都道府県・106市・2特別区・46町・10村、合計191の自治体が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明しました。

このように国際社会も、日本政府や国内の多くの自治体も、カーボンニュートラルを目指して取り組みを始めています。

カーボンニュートラルに向けての具体的な取り組み

現在、国内の72社が2030年から2050年の間にカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。

それぞれの企業が自社の二酸化炭素排出量を認識し、削減していきます。

ここでは「サントリー」と「積水ハウス」の取り組みをご紹介します。

サントリー 環境目標2030と環境ビジョン2050

サントリーは環境目標2030と環境ビジョン2050を掲げています。

環境目標2030の中で二酸化炭素排出量に関する目標は以下のとおりです。

  • 最新の省エネ技術の積極導入や再生可能エネルギーの活用などを通じ、自社拠点でのCO2排出をグローバルで25%削減
  • 自社拠点以外のバリューチェーンにおけるCO2排出を20%削減

サントリー 環境ビジョン

そして環境ビジョン2050では、2050年までのカーボンニュートラルを掲げています。

積水ハウス ZEHの普及

積水ハウスはZEH住宅の普及を促進し、FIT制度の適用期間が終了したオーナーの余剰電力を買い取って小売りするなど、省エネと再生可能エネルギーの普及に貢献しています。

社内でも脱炭素に向けて取り組んでいます。

2017年には事業で消費するすべての電力を再生可能エネルギーでまかなうことを目指すRE100に加盟。

事業用電力のうち再生可能エネルギーが占める割合を2030年に50%、2040年に100%を目指しています。2050年にはカーボンニュートラルを実現する計画です。

出典:積水ハウス 脱炭素社会

まとめ

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、世界では日本を含む123カ国・1地域、国内では191の自治体と72の企業が取り組みを行っています。

これほどまでにカーボンニュートラルを目指す人々が多いのは、地球温暖化問題の緊急性が増していることの裏返しでもあるのです。

私たちや後世の人々が安心して暮らしていくためにも、国家から個人まで、できるだけ多くの人が脱炭素に取り組まなければなりません。

個人でもCEVやZEHを選んだり、日常生活で化石燃料や電力消費を控えたりすることで、カーボンニュートラルに貢献できます。

一人ひとりが脱炭素を意識することでカーボンニュートラルの達成が早まります。

それは地球の環境を保護して、私たちや後世の豊かな暮らしを守ることにつながるのです。

また、太陽光発電ファンドなどの再生可能エネルギー発電ファンドに投資をすることで、カーボンニュートラルに貢献しながら資産運用することもできます。


前へ

相続税が大幅減!小規模宅地等の特例が適用される不動産とは

次へ

「貯蓄型保険は必要ない」は本当か?保険募集経験のあるFPが解説