ESG投資は単なる理想論にあらず。ESGとSDGsとの関係、個人でESG投資する方法を解説

 

この記事の目次

従来の財務情報だけではなく、環境・社会・ガバナンスといった非財務情報を考慮して投資するESG投資。国際団体のGSIAによれば、主要先進国・地域のESG投資残高は2018年時点で約31兆ドル(※)。

市場規模は年々拡大しており、投資市場で一つのムーブメントになっています。

ただ環境や社会といったキーワードを聞いて、ESG投資をどこか高尚な投資と思われている方もいるのではないでしょうか。

しかしESG投資の目的は、長期的なリターンの追求にあります。社会を良くするために投資をすると言うより、リターンを追求するためにESGを意識すると言ったほうがよいでしょう。

この記事ではESG投資の本質と個人でESG投資を始める方法を、わかりやすく解説します。

「SDGs」や「社会的責任投資」との違いもご案内していきますので、投資判断の参考にしてください。

※ESG投資残高の出典:「2018 GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW」

1.ESG投資とは?SDGsや社会的責任投資との違い

ESG投資のESGは、以下3つの言葉の頭文字から取られています。

  • Environment(環境)
  • Social(社会)
  • Governance(ガバナンス=企業統治)

要は、上記3つの観点で企業の将来性などを分析・評価して、投資判断に役立てるのがESG投資です。ここではESG投資とは何かを、SDGsや社会的責任投資との違いもふまえて解説していきます。

1-1.「長期的なリターンを追求する合理的な方法」がESG投資

ESG投資は環境や社会、ガバナンスに配慮した企業を評価して投資します。

具体的な評価例は、以下のとおりです

E(環境)

二酸化炭素の排出量を減らすために再生可能エネルギーの普及に努めるなど、環境に配慮した取り組みをしている

S(社会)

自然災害時の物資支給など地域社会への貢献、従業員の働きやすさ、女性の活躍など、社会的な課題に取り組んでいる

G(ガバナンス)

外部取締役の登用により、経営の透明性を目指している

上記の取り組み例を見て、「公益性や倫理意識の高い企業に投資するもの」と思われたかもしれません。

しかしESG投資が追求しているのは、倫理観ではなく長期的なリターンです。

「企業が社会で利益を上げ続けるためには、環境や社会問題の解決が必要不可欠。種々の問題に先行して取り組んでいる企業は、長期的に見たリターンも大きくなるだろう」これがESG投資の本質です。

ESG投資が流行する以前から、グローバル企業の多くは環境や社会に配慮した活動を行ってきました。たとえばAppleは、自社施設の電力を100%再生可能エネルギーで賄っています。またコカ・コーラは水資源の保護に取り組み、「製品に使った量と同じ量の水を自然に還元すること」を目標に掲げています。

世界的に有名な企業が真剣に環境問題に取り組んでいるのは、単なるブランディングではありません。

二酸化炭素の排出量や水の消費量を減らさなければ、製品の原材料や資材を調達できなくなるかもしれない。このような危機感を抱いているからこそ、いち早くESGを意識した取り組みを行ってきたのです。

したがってESG投資は単なる理想論ではなく、長期的なリターンを追求するための、シンプルで合理的な投資判断と言えます。

1-2.ESG投資とSDGsの関係

ESG投資と深く関わる言葉に、「SDGs(持続可能な開発目標)」があります。SDGsとは、地球が抱えるさまざまな問題を解決するための、開発目標の集合体です。

貧困や飢餓により、十分な栄養を得られずに亡くなっていく子どもたち。広がり続ける経済・教育・健康・福祉・住環境の格差。地球温暖化による、気候変動。このような世界中の課題を解決するための開発目標の集まりが、SDGsです。

ESG投資は「SDGsを達成するための投資」と思われがちですが、そうではありません。ESG投資の目的はSDGsの達成ではなく、投資のリターンを上げること。あくまでリターンの追求にあります。

ただSDGsは、地球規模で考えなければならない課題です。ESG投資で企業を評価するとき、SDGsの達成に貢献しようとしている企業は、必然的に評価が高くなるでしょう。

つまりSDGsという課題に取り組む企業を評価し、投資判断の参考にしたうえで、リターンを追求するのがESG投資です。

1-3.ESG投資と社会的責任投資との違い

ESG投資の源流には、「社会的責任投資(Socially Responsible Investment)」があります。

社会的責任投資では、環境問題など社会的な課題に対する企業の取り組み姿勢を考慮して、投資先を選定します。非財務情報を考慮して投資判断に取り入れるという意味では、ESG投資と同じです。

では両者は何が違うのかと言うと、投資の始まり・歴史的背景です。

社会的責任投資は、1920年代ごろに起きた「タバコやお酒など、キリスト教の教えに反する銘柄への投資は避けるべき」という投資行動が始まりでした。

リターンを犠牲にしてでも、倫理的な価値観を優先させる。これが社会的責任投資の発端だったのです。

以降、社会的責任投資の考え方は時代にあわせて変化していきます。1990年代には、投資家が企業の長期的な収益獲得を目指し、企業の運営体制など非財務情報を評価する戦略が普及しました。そこで企業は投資家を呼びこむため、社会貢献活動をCSRとして公表する方針へ転換します。

当初は倫理観を優先させていた活動が、「社会貢献と長期的なリターンの追求」双方を目指すものとして誕生したのが、ESG投資です。

2010年代に生まれたESG投資は、「持続可能な社会の発展」を目指しながらも、リターンの追求を目的としています。

倫理観を優先する社会的責任投資の考えが、時代にあわせて変化してきた結果、ESG投資が生まれたのです。

長期的にリターンがなければ、社会的な責任を継続して果たしていくのは難しい。こうした価値観がより強く表れているのが、ESG投資と言えるでしょう。

2.個人投資家も注目・GPIFのESG投資

日本でESG投資が注目されるようになったきっかけは、GPIFが2017年にESG投資を始めたことです。

GPIFとは、公的年金の給付財源となる年金積立金を管理・運用している独立行政法人。2019年度末時点の運用総額は150兆円(※)を超え、「世界最大の機関投資家」と言われています。そんなGPIFが投資判断にESGを取り入れたのですから、話題にならないわけがありません。

ここではGPIFがどのようなESG投資をしているのか、採用しているESG指数とあわせて解説していきましょう。

※運用総額の出典:「2019年度の運用状況」(GPIF)

2-1.GPIFのESG投資と採用しているESG指数(インデックス)

GPIFは2015年にESG投資を行うと宣言し、2017年より実際にESG投資を始めました。2019年度末の「ESG活動報告」によれば、今では約150兆円(2019年度末時点)の運用資産すべてにESGの要素を取り入れています。

具体的には、株式や債券などの運用資産を委託している運用会社の評価基準に、ESGの視点を組みこんでいます。運用会社が投資対象の銘柄を分析・選定する際の投資判断に、ESG要素を体系的に組み込むことを求め、評価をしているのです。

また複数のESG指数を採用し、指数に連動するパッシブ運用も行っています。パッシブ運用の対象資産は5.7兆円(2019年度末時点)に上り、指数に連動するETFや投資信託も多く販売されるようになりました。

なお現在GPIFが採用している指数は、以下の5つです。

<GPIFが採用しているESG指数>

指数 対象 コンセプト 指数組入銘柄の対象
FTSE Blossom Japan Index 国内株 ・世界でも有数の歴史を持つFTSEのESG指数シリーズ。FTSE4Good Japan IndexのESG評価スキームを用いて評価。
・ESG評価の絶対評価が高い銘柄をスクリーニングし、最後に業種ウエイトを中立化したESG総合型指数。
FTSE Japan Index
MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数 国内株 ・世界で1,000社以上が利用するMSCIのESGリサーチに基づいて構築し、様々なESGリスクを包括的に市場ポートフォリオに反映したESG総合型指数。
・業種内でESG評価が相対的に高い銘柄を組み入れ。
MSCI JAPAN IMI TOP 700
MSCI日本株女性活躍指数 国内株 ・女性活躍推進法により開示される女性雇用に関するデータに基づき、多面的に性別多様性スコアを算出、各業種から同スコアの高い企業を選別して指数を構築。
・当該分野で多面的な評価を行った初の指数。
MSCI JAPAN IMI TOP 700
S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数 国内株 ・環境評価のパイオニア的存在であるTrucostによる炭素排出量データをもとに、世界最大級の独立系指数会社であるS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが指数を構築。
・同業種内で炭素効率性が高い(温室効果ガス排出量/売上高が低い)企業、温室効果ガス排出に関する情報開示を行っている企業の投資ウエイト(比重)を高めた指数
TOPIX
S&Pグローバル大中型株カーボン・エフィシェント指数(除く日本) 外国株 S&P グローバル大中型株指数(除く日本)

出典:年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)「ESG活動報告書 GPIFが採用しているESG指数の主な特徴」

公的年金財政の一部を担うGPIFの運用は、超長期の視点で行われています。

個人投資家においても、長期で安定した収益を目指すのであれば、GPIFのESG投資に対する取り組みは参考になるでしょう。

3.個人でESG投資を始める方法は3つ

個人がESG投資を始める方法として、投資信託・ETF・個別株への投資があります。それぞれ、具体的に解説しましょう。

3-1.【投資信託】ESG・SDGs関連ファンドへ投資する

ESGやSDGsをテーマにした投資信託(ファンド)へ投資する方法です。

ESGやSDGs関連ファンドは、おもに以下の2つに分けられます。

  • アクティブファンド:ESGやSDGsの関連で評価が高い企業の銘柄をファンドマネージャーが選定し・ファンド内で運用する
  • インデックスファンド:特定のESG指数(インデックス)に連動する投資成果を目指し、運用される

アクティブファンドは、ファンドによってESGの評価基準が異なります。投資信託説明書などで運用方針を確認しておきましょう。

一方でインデックスファンドは、「指数に連動する」わかりやすい運用方針が特徴です。信託報酬など、コスト面で比較するのが良いでしょう。

投資信託は、比較的少額で始められるファンドが多くなっています。証券会社の積み立てサービスも充実しているため、少額から手軽に積立投資を始められる点が魅力です。

3-2.【ETF】ESG指数(インデックス)に連動したETFへ投資する

ESG指数に連動するETF(上場投資信託)へ投資する方法です。

先ほどご紹介したGPIFの5つの指数に連動するETFを購入すれば、GPIFのパッシブ運用を個人でも簡単に取り入れられます。

投資信託でも、ESG指数に連動するインデックスファンドがあります。投資信託かETF、どちらを選ぶか悩む方もいらっしゃるでしょう。

ETFも投資信託も、複数の銘柄を内包しているというファンドの仕組みは同じです。ただETFの場合、上場株式と同様に上場市場で取引されているため、より機動的な取引が可能です。また投資にかかるコスト(信託報酬)においては、投資信託よりもETFのほうが低コストであることが多くなっています。

一方で投資信託には、少額で積み立て投資をしやすいというメリットがあります。利便性や少額投資を重視する場合は投資信託、コストを重視した機動的な取引がしたい場合は、ETFを利用すると良いでしょう。

3-3.【個別株】ESG要素の強い銘柄へ投資する

ESGの観点で企業を評価し、自身で銘柄を選定して投資する方法です。

投資対象の選定を運用会社に任せられる投資信託やETFと違い、個別株投資は自ら投資対象を選定します。

また分散投資のために複数銘柄を保有しようとすると、それ相応の資金が必要です。したがって個人でESG投資を実践するには、もっともハードルが高い方法と言えます。

個人でESG要素の強い銘柄を見つける際は、GPIFが公開しているポートフォリオや、ESG指数の採用銘柄が参考になります。気になる企業をピックアップし、ホームページや統合報告書から、具体的なESGへの取り組みを確認しましょう。

ただESG要素の確認は、投資判断の一つにしかすぎません。いくら取り組みが立派でも、企業収益が悪ければ株価は上昇しないでしょう。銘柄を選ぶ際は、ESG要素とあわせて従来の財務情報を注視することも忘れないようにしてください。

4.ESG要素は判断材料のひとつ。まずはパフォーマンスを重視しよう

個人投資家が長期で安定した収益を目指すとき、ESG投資の考え方は参考になります。

ただESGを評価するための情報開示量は、企業によって差があります。また定性的な方法で分析するため、評価にはばらつきが出やすいです。

ESG投資自体がまだ発展途上にあるため、「ESG評価が高い」という点だけを見て投資判断をするのは危険です。

ESG評価の高さは、あくまで投資の判断材料の一つにしかすぎません。

ESG投資を始める際は、財務情報や過去のパフォーマンスなど、従来の投資判断ポイントを確認することが大切です。必要な要素を確認したうえでESG要素を評価し、総合的な視点で投資先を判断してください。

5.まとめ

ESG投資は、社会を良くすることが目的の投資ではありません。

リターンを追求するためにはESGに考慮して社会を良くすることが不可欠と考え、投資の判断に利用するのがESG投資です。

ただESG投資の評価はまだ発展途上な面があり、ESG評価の高さだけで、パフォーマンスの良い企業を見極めることはできません。ESG評価はあくまで、数ある投資判断のうちの一つにしか過ぎないのです。

まずはあなた自身と家族が十分なリターンを得て幸せになり、そのうえで社会を幸せにすること。この本質を忘れないようにして、ESG投資の考え方を投資に取り入れてみてはいかがでしょうか。


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