住宅用・産業用太陽光発電の違いとは?2020年の最新情報を解説します

 

この記事の目次

太陽光発電は設備規模によって「住宅用・産業用」の区分があり、それぞれ運用形態や収益性、設置費用の平均値が異なっています。

ここでは、住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電の違いについて、2020年度時点の情報をもとに解説していきます。

なお、産業用太陽光発電に関しては、2020年度から大きな変更が加わりました。

投資目的での太陽光発電投資を検討している方は、とくに「産業用太陽光発電の仕組み・設置費用」の章をご参照ください。

1.住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電の違い

住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電は、それぞれどのような違いを持っているのでしょうか?

仕組みや設置費用について解説しつつ、いずれの区分の太陽光発電にも適用されるFIT制度(固定価格買取制度)の内容もご紹介します。

1-1.住宅用太陽光発電の仕組み・設置費用

一般住宅の屋根に設置される10kW未満の太陽光発電設備は、住宅用太陽光発電に分類されます。

発電された電力はまず自宅で消費され、そのあとに自家消費できなかった余剰分の電力を売却する仕組みとなっており、この仕組みを「余剰買取」と呼びます。

自家消費をしなければならない特性上、売電に特化して収益をあげる目的に適していません。

ただし、自家消費が電気代節約につながるため間接的には経済的なメリットがあり、消費電力の自給自足によりCO2削減へ貢献できる点は魅力的です。

なお、FIT制度の適用期間は10年間となっており、認定時に適用された電力買取価格が10年のあいだ持続します。

設置費用に関しては規模に応じて変動があるものの、相場は100万~300万円程度です。

経済産業省が公開している以下資料をもとに、システム費用の平均値と設備規模を掛け算することで、おおよその初期費用を割り出せます。

出典:調達価格等算定委員会「令和2年度の調達価格等に関する意見」

上記資料によると、2019年度に設置された新築案件のシステム費用(設備費+工事費)は、平均値が1kWあたり30.6万円です。5kWの太陽光発電設備を取り付けるのであれば、単純計算で150万円ほどの費用が必要になると算出できます。

上限に近い積載量となる9kW台になれば、費用は300万円近くになるため、住宅用太陽光発電の設置費用は前述した通り100万~300万円ほどと捉えて問題ないでしょう。

1-2.産業用太陽光発電の仕組み・設置費用

工場や商業施設の屋根、広い空き地に設置される10kW以上の太陽光発電設備は、産業用(事業用)太陽光発電に分類されます。産業用太陽光発電の場合、発電設備がFIT制度の認定を受けた年度によって全量買取と余剰買取が分かれます。

売電形態 対象となる太陽光発電設備
全量買取
  • 2019年度以前に認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備
  • 50kW以上の太陽光発電設備
  • 2020年度以降に認定を受けた10kW以上50kW未満の営農型太陽光発電設備(10年間の農地転用許可が認められ、かつ災害時の活用が可能な場合)
余剰買取
  • 2020年度以降に認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備

上記の通り、2020年度以降にFIT制度の認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備は、原則として余剰買取が適用されます。

本記事の執筆時点では、発電した電力の3割以上を自家消費に充てるよう規定されているため、総発電量のうち売電に充てられるのは最大7割です。

さらに、災害時に非常電源として活用できるような設備構造・事業計画が必要となり、2019年度以前よりも要求される事項は増えました。

一方、全量買取が適用されるケースでは、以下のように発電した電力をすべて売却し、電力買取によって収入を得られる仕組みとなっています。

産業用太陽光発電の場合、FIT制度の適用期間は20年間です。

設備費用に関しては設備規模に応じて大きく差があり、以下の通り10~50kWと50~100kW、500~1,000kWと1,000kW以上で費用の平均値が異なります。設置費用の概算を求める場合は、参照する平均値を誤らないよう注意が必要です。

出典:調達価格等算定委員会「令和2年度の調達価格等に関する意見」

たとえば、10kW以上50kW未満の場合、システム費用の平均値は1kWあたり26.8万円です。

そのため、50kW近くの太陽光発電設備を導入する場合には、1,300万円程度の費用がかかることとなります。

発電量を底上げするため、実際には太陽光パネルを多く設置する「過積載」と呼ばれる手法を使うことがあり、積載率(過積載の程度)に応じて設備費用は増減します。

そのほか、追加設備の有無によって百万円単位で費用総額は変わるため、上記資料の数字をもとにした概算は具体的な見積もりが出るまでの目安程度にとどめておきましょう。

1-3.太陽光発電の電力買取価格を決めるFIT制度とは

再生可能エネルギーによって作り出されたエネルギーを、定められた金額で一定期間にわたり電力会社が買い取る制度がFIT制度(固定価格買取制度)です。

2020年度における住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電の電力買取価格は、それぞれ以下のようになっています。

設備規模(発電出力) 2020年度の電力買取価格
住宅用太陽光発電
(10kW未満)
21円
産業用太陽光発電
(10kW以上50kW未満)
13円+税
※地域活用要件あり(本記事1-2を参照)
産業用太陽光発電
(50kW以上250kW未満)
12円+税
産業用太陽光発電
(250kW以上)
入札により決定

太陽光発電事業者はFIT制度によって安定的な売電が可能となり、投資額回収を助けられる形となっています。

FIT制度の施行によって再生可能エネルギーへの投資は活発化し、とくに太陽光発電の普及率は勢いよく増加してきました。

出典:資源エネルギー庁「平成30年度(2018年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」

上記資料から、FIT制度が施行された2012年(住宅用太陽光発電の買取制度は2009年スタート)以降、太陽光発電の比率が伸びていることが読み取れます。

2.住宅用太陽光発電を選ぶメリットとは

住宅用太陽光発電は、産業用太陽光発電と比較して以下のようなメリットがあります。

  • 自宅の電気代を削減できる
  • 卒FIT後の運用イメージが分かる
  • 産業用より少額から環境保全に貢献できる

それぞれ、どのような面でプラスに働くのか解説していきます。

2-1.自宅の電気代を削減できる

住宅用太陽光発電の導入は、自宅の電気代削減につながります。家計の負担を減らすほか、災害時における自宅の非常電源としても利用できるため、あらゆる面でリターンを得られます。

2-2.卒FIT後の運用イメージが分かる

住宅用太陽光発電はFIT制度の適用期間が10年であるため、2020年時点ですでにFIT制度を終えた太陽光発電設備が多くあります。

このように、FIT制度の適用期間を終えたケースを「FIT制度を卒業した」という意味合いで卒FITと呼びます。

2020年度の時点で、FIT制度を終えた住宅用太陽光発電の電力は1kWあたり7~10円前後で買い取られており、これまで不透明であった卒FIT後の運用イメージに具体性がもたらされました。

産業用太陽光発電は2020年度の時点でFIT制度を終えている案件がないため、卒FIT後の運用イメージを予測しづらい一方、住宅用太陽光発電は先例をもとに10年目以降の運用計画を予測できる点がメリットです。

2-3.産業用より少額から環境保全に貢献できる

産業用太陽光発電を始める場合、個人規模で運用することの多い10kW以上50kW未満の発電設備は、1,000万~2,000万円ほどの初期費用がかかります。

一方、住宅用太陽光発電に分類される発電設備は、規模が小さく100万~300万円前後の資金でも始められます。

水力発電や風力発電、地熱発電やバイオマス発電など、太陽光発電以外にも再生可能エネルギーの種類は複数ありますが、ほかに個人が100万~300万円程度から始められるものはありません。

そのため、直接的に環境保全へ貢献する方法として、住宅用太陽光発電は比較的安価で取り組める手段だといえます。

3.産業用太陽光発電を選ぶメリットとは

産業用太陽光発電は、住宅用太陽光発電と比較して以下のようなメリットを持っています。

  • 融資を利用して大規模な投資ができる
  • 災害時の非常電源として地域で活用できる
  • より大きな規模で環境保全に貢献できる

こちらも、それぞれどのような面でプラスに働くのか解説していきます。

3-1.融資を利用して大規模な投資ができる

産業用太陽光発電は金融機関から「事業」と認識されるため、融資を利用して発電設備の運用を始められます。

設備費用は高額であるものの、融資を利用して投資資金の一部、あるいは全部を借り入れて必要額を用意できるのです。

数百万円、数千万円規模で資金を借り入れて始められる投資は、太陽光発電投資や不動産投資などごく限られた選択肢に絞られるため、まとまった自己資金を用意せずに投資を始められる点は産業用太陽光発電の魅力だといえます。

3-2.災害時の非常電源として地域で活用できる

2020年度以降にFIT制度の認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備は、災害時に非常電源として活用できる設備構造にすることが義務化されました。

追加で設備投資が必要となるため、投資リターンが低下する点でデメリットにもなり得ますが、太陽光発電事業を通じて地域貢献ができる点はメリットです。

景観を損ねたり反射光が眩しいと問題になったり、太陽光発電の設置が地域住民の反感を買うケースがありますが、災害時に活用できる太陽光発電は頼れる施設として地域住民からも重宝されるものと思われます。

3-3.より大きな規模で環境保全に貢献できる

安易に優劣をつけるべき事柄ではないものの、再生可能エネルギー普及の観点からいえば、産業用太陽光発電の貢献度は住宅用太陽光発電よりも大きいといえます。

住宅用太陽光発電は、100万~300万円から環境保全に貢献できる点がメリットでしたが、貢献度の大きさを比べるなら産業用太陽光発電に軍配が挙がるといえるでしょう。

4.投資目的なら太陽光発電ファンドも有力候補

個人投資家の主な投資先であった10kW以上50kW未満の発電設備は、2020年度以降に認定されたものから全量買取の対象外となるため、個人が投資目的で太陽光発電を始める道は絞られてしまいました。

50kW以上の太陽光発電設備を導入したり、営農型の太陽光発電設備を導入したりといったケースは、それぞれ金銭面や運用体制をクリアできる個人が少なく非現実的です。

住宅用太陽光発電も金銭的なリターンを得る目的には適していないため、残された投資先の候補には以下が挙げられます。

  • 2019年度以前に認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備
  • 全量買取の太陽光発電設備へ投資する太陽光発電ファンド

このうち、2019年度以前に認定を受けた10kW以上50kW未満の発電設備は、すでに早い者勝ち状態となっており条件が優れているものから購入されつつあります。

一方、太陽光発電ファンドは大規模な太陽光発電設備を投資対象とするものが多く、2020年度以降に適用される新要件の対象になりません。

また、複数の出資者を募って投資資金を集める太陽光発電ファンドの特性により、出資者に求められる最低投資額は少額。弊社が提供している『ソライチファンド』を例にすると、最低投資額は50万円(申込単位:1口)です。

環境保全を目的とする場合、投資リターンの獲得を目的とする場合のいずれであっても、より少額から太陽光発電に取り組む選択肢となる点が太陽光発電ファンドの魅力だといえるでしょう。太陽光発電ファンドの詳細な特徴については、以下記事で解説しています。

できる限り必要投資額を抑えつつ、太陽光発電のスタートを検討する場合はご参照ください。

5.まとめ

住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電を、コスト面や運用イメージの観点から比較解説しました。

2019年度まで、個人規模で太陽光発電を始める場合には、電気代節約や手軽なエコ活動なら住宅用太陽光発電、投資目的なら産業用太陽光発電と明確な住み分けがありました。

ただし、10kW以上50kW未満の発電設備に関しては、2020年度におけるFIT制度の内容変更にともなう新要件の追加により、地域貢献や環境保全の意味合いが強くなったように感じられます。

これから太陽光発電を取り組もうと検討する方は、本記事を参考にしつつ住宅用太陽光発電と産業用太陽光発電、そして太陽光発電ファンドから目的に応じた選択をしていただければと思います。


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