進む脱炭素化で住宅のありかたはどうなる?太陽光発電義務化は?今後の住宅事情を解説

 

この記事の目次

二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「脱炭素社会」。

身近な脱炭素の取り組みとしてレジ袋有料化が記憶に新しいですが、実は私たちが暮らす住宅のありかたも変わろうとしています。

たとえば2025年度には、戸建てやマンションなどの新築住宅で一定の省エネ基準を満たすことが義務化されます。

また2030年度には、新築戸建住宅の6割で太陽光発電設備の導入を目指すことが公表されました。

脱炭素社会に向けて今後の住宅事情はどうなるのでしょうか。

詳しく解説します。

1.脱炭素社会で今後の住宅のありかたが変わる

脱炭素社会へ向けてさまざまな取り組みが行われる中で、個人の住宅のありかたも変わろうとしています。

なぜなら脱炭素対策の基本はエネルギーの見直し。日本の温室効果ガス排出の8割以上はエネルギー起源にあるとされ、見直しの対象には当然個人の住宅も含まれています。

今後の住宅はどうなるのかというと、エネルギーの作り方と使い方を見直した住宅が求められるようになります。

より具体的にいえば「省エネ」と太陽光発電などの「再エネ導入」が標準化された低炭素住宅が国の目指す姿です。

2021年8月の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では、国が目指すべき住宅のありかたが公表されました。

<国が目指すべき住宅・建築物のありかた>

【2030年】

新築住宅・建築物で一定水準*の省エネ性能を確保し、新築戸建て住宅の6割で太陽光発電設備を導入

【2050年】

ストック平均で一定水準*の省エネ性能を確保し、導入が合理的な住宅では太陽光発電設備の導入が一般化となる

*ZEH・ZEB基準の水準 出典:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」

上記は絵姿目標であり、たびたび話題になる「住宅への太陽光発電の義務化」が決定したわけではありません。

ただ2030年の6割導入を明言している以上、いずれ太陽光発電についてもなんらかの法規制が整備されるのではないでしょうか。

2021年時点で決定している法規制としては、省エネの強化対策である「2025年度からの新築住宅に省エネ基準適合を義務化」があります。

また先の検討会によると、今後は新築住宅だけではなく既存住宅の省エネ改修促進も予定されています。

このように求められる住宅のありかたも、住宅を取り巻く法規制もどんどん変わってきています。

これから住宅購入や建築を予定している人は、国の方針や各種制度の動向を注視したうえで今後の住まいを考えるようにしましょう。

今後の住宅は省エネ・再エネ・炭素吸収源対策が軸となる

一般の住宅で省エネや再エネを標準化させるためには、どのような対策が行われるのでしょうか。

「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」によると、具体的な取り組みの軸は以下の3つ。

1.住宅・建築物の省エネ性能の確保・向上・改修の促進

2.太陽光発電の活用をメインにすえた再生可能エネルギーの導入・拡大

3.木材の利用拡大による炭素の吸収源対策

出典:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」

このうち大きな焦点となるのが、1の省エネ対策と2の再エネ導入。

1の省エネ対策の一つが先述した「新築住宅の省エネ基適合義務化」です。

2025年度から予定されているこの義務化では、戸建てやマンションなど新築住宅の建築基準が厳しくなります。

たとえば断熱材の活用や高機能の換気設備の設置など、一定の省エネ基準を満たす住宅でなければ建築できません。

2の再エネ導入対策のメインは義務化が取り沙汰されている「太陽光発電設備の設置拡充」です。

2021年時点で義務化は保留となっているため、現段階では義務化がどうなるのかはわかりません。

しかし2021年9月、東京都が都内住宅における太陽光発電設備の設置義務化を検討するといった報道もありました。

今後、各地方自治体で独自に義務化規制が進む可能性も考えられます。

いずれにしても、太陽光発電設備の設置が促進される流れは一貫して変わりません。

その他、これから家づくりを考える人にとって注目しておきたいのが「ZEHやLCCMといった住宅の促進、支援策の実施」です。

これらの住宅は環境に優しいだけではなく、光熱費を抑えて生活コストを大きく引き下げる効果が期待できます。次項で詳しく見ていきましょう。

2.今後も大きな支援が予定されているZEH・LCCM住宅とは

ZEHやLCCMとは、国が目指す「省エネ対策・再エネ導入が標準化した住宅」です。

<ZEH・LCCM住宅とは>

・ZEH(ゼッチ)(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス):年間における住まいのエネルギー収支をゼロにすることを目指した住宅

・LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅:ZEHの基準に加えて建築から廃棄までの二酸化炭素排出量にも配慮し、一生涯の二酸化炭素収支をマイナスにする住宅

これらの住宅の特徴は、電気やガスといったエネルギーにかかるコストを抑えられるということ。

つまり環境だけではなく、家計にも優しい住宅です。

ただし建築時には一定のコストがかかるため、補助金など各種優遇制度も確認したうえで検討する必要があります。

ここではZEHとLCCMの違いを解説しながら、メリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

ZEHとLCCM住宅とは?違いとあわせて解説

自家発電で作ったエネルギーを効率よく使い、住まいのエネルギー収支ゼロを目指す住宅がZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。

そしてZEHのさらに先を目指しているのが、一生涯の二酸化炭素収支をマイナスにするLCCM住宅(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス住宅)です。

LCCM住宅ではZEHの基準に加えて、建築から廃棄までの二酸化炭素排出量にも配慮しています。ただし2021年時点では普及が始まったばかりということもあり、国内の建築事例は少ないです。

LCCM住宅は低炭素住宅の最終目標と言える理想ですが、個人住宅の建築対応事業者はまだまだ少ない点に留意しましょう。

ZEHとLCCM住宅は、いずれも補助金の対象です。条件を満たせば建築時に60万円~125万円の補助金を受けられるため、建築費や設置費が気になっている人でも環境に優しい家づくりを検討できます。

今後もZEH、LCCM住宅の補助継続は予定されており、ZEHについては融資や税制支援の拡充も検討されています。

これから住宅購入・建築を考えている人は、各種補助・優遇制度の状況をよく確認しておくといいでしょう。

3.メリット・デメリット

ZEHもLCCM住宅も、高断熱・高気密で太陽光発電設備が設置された環境に優しい住宅という点は同じです。

二つの住宅に共通するメリット・デメリットを以下にまとめました。

<ZEHとLCCM住宅のメリット・デメリット>

メリット デメリット
・光熱費を抑えられる
・太陽光発電による売電収入も見込めるため、光熱費の収支がプラスになる可能性もある
・夏は涼しく冬は暖かく過ごしやすい
・蓄電池を用意すれば災害時にも電気を使える
・補助金の対象になっており、今後も政府の補助継続と拡充が予定されている
・各種省エネ設備や太陽光発電設備の設置費用がかかる
・太陽光発電パネルのメンテナンス費用がかかる
・太陽光発電のエネルギー量は天候に左右される
・導入から一定期間経つと太陽光発電の売電収入が下がる
・外観に制限が出る

特筆すべきポイントは、光熱費が大幅に抑えられることです。

特に居住後一定期間はFIT制度による電気の固定買い取りがあるため、一定の売電収入を見込めます。

場合によっては使うエネルギーよりも売電で得た収入のほうが多く、収支がプラスになることもあるでしょう。

生きていくうえでエネルギーの利用は欠かせないため、エネルギー由来の生活コストを大きく引き下げできるのは大きな魅力ではないでしょうか。

ただし各種設備設置のための建築費は、住宅購入時の大きな足かせになります。この点は先述したとおり拡充が予定されているため、今後の支援策に期待したいところです。

また、最近はZEHマンション(ZEH-M)も少しずつ出てきています。ZEHマンションであれば、今まで難しかったマンション宅での太陽光発電が可能になります。

太陽光発電に興味はあるけどマンション派だから、という人は、お住まいの地域でZEHマンションがないかを確認してみるといいでしょう。

参考:「ZEHに関する情報公開について」経済産業省

4.まとめ

住宅購入は非常に高い買い物です。

ただでさえ購入費がかさむため、環境配慮や脱炭素なんていっていられない、という人もいるでしょう。

とはいえ国が目指しているのは、自ら作ったエネルギーを効率よく使い、エネルギーの利用にかかるコストを大きく抑えられる住宅。環境に優しい住宅は住み始めてからの家計にも優しいのです。

もちろん省エネ対策や再エネ導入には一定の費用がかかります。しかし購入時の補助金や居住後の光熱費、売電収入をトータルで考えると、決してコスパが悪いとは言えないのではないでしょうか。

太陽光発電に加えて蓄電池も用意すれば、災害時には頼もしいエネルギー源にもなります。

このように脱炭素に配慮した住宅には、長期で考えるとさまざまなメリットがあります。

特にZEHやLCCM住宅は今後も補助の充実や普及拡大が検討されているため、住宅購入や建築時に使える優遇制度があるかもしれません。

こうした優遇制度や住み始めてからの家計もふまえたうえで、住宅購入や建築を考えるようにしてくださいね。


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