抵当権付きの不動産は売却できる?注意点を解説

 

この記事の目次

住宅ローンや不動産投資用ローンを組んで購入した不動産を、ローンの完済前に売却することはしばしばあります。

ローンを完済していない場合、不動産に抵当権が付いたままになっていることが通常です。

また完済したとしても、抵当権設定登記を抹消していなければ不動産登記上は抵当権が残っているように表示されます。

そもそも抵当権が付いている不動産は売却することができるのでしょうか。

抵当権付き不動産を売却するときの注意点や実際の不動産取引における流れなどを解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 抵当権とは、ローンの返済が滞ったときに金融機関が不動産の売却代金から優先的に回収できる権利
  • 抵当権付きの不動産を売却すると、新しい所有者はその不動産で元の債務を担保することになる
  • 不動産売買では、引渡し日までに抵当権設定登記の抹消を求められることが一般的

1.抵当権とは

ローンを組むと「抵当権」が設定されることが通常です。

抵当権とはそもそもどのような権利なのでしょうか。

以下では、抵当権についての基本的な事項や「根抵当権」との違いについて説明します。

1-1.抵当権を設定する目的

抵当権とは、債務者によるローンの返済が滞ったときに、金融機関などの債権者が抵当権の付いた不動産を競売し、売却代金を優先的に債務の支払いにあてることのできる権利をいいます。

不動産を所有している人がローンを組むときは金融機関から抵当権の設定を求められることが一般的です。

なお、金融機関が不動産に抵当権を設定していなかったとしても、ローンの返済が滞れば不動産に対して強制執行をすることはできます。

しかし、他にも債権者がいた場合には原則として不動産の売却代金を各債権者で分け合うことになります。他の債権者の数や債務の総額によっては、強制執行しても不動産の売買代金からローンの残債を全額回収できるとは限りません。

これに対して、不動産に抵当権を設定しておけば、他の債権者に「優先して」不動産の売買代金から返済を受けることができます。

ローンの金額よりも評価額の高い不動産に抵当権を設定しておけば、ほぼ間違いなく金融機関はローンを回収できます。

住宅ローンや不動産投資用ローンは債権の金額が高いため、金融機関としては確実に返済を受けられるように不動産に抵当権を設定するのです。

1-2.抵当権の仕組み

返済が滞ったときに抵当権を実行することのできる立場の人を「抵当権者」と呼びます。

住宅ローンや不動産投資用ローンを貸す側である金融機関が抵当権者です。

これに対して、自分の所有する不動産を担保として差し出す側の人を「抵当権設定者」と呼びます。通常はローンを借りた人自身が抵当権設定者となります。

ただし、ローンを借りた債務者と異なる第三者が自分の不動産にその債務者のために抵当権を設定することも可能です。

債務者以外の第三者が所有する不動産に抵当権を設定することを「物上保証」といいます。

不動産に抵当権が設定されると、不動産登記の権利部のうち「乙区」と呼ばれる箇所に、抵当権者の名称や住所、債権額、債務者の氏名や住所などが記載されます。

1-3.抵当権と根抵当権の違い

抵当権と似た権利として「根抵当権」があります。

根抵当権と抵当権とは、借り入れなど債務を担保する目的で不動産に設定されるという点では同じです。

ただし、根抵当権は抵当権と大きく異なる点もあります。

例えば、根抵当権の場合は「極度額」と呼ばれる担保の上限額を定め、その範囲内で何度も貸し借りを繰り返すことができます。

これに対して、抵当権の場合には一度債務が完済されると、それを担保するための抵当権も消滅するのです。

このような性質から、事業で複数回の継続的な借り入れが予定されている場合に根抵当権を設定することが通常です。

反対に、住宅ローンのように1回の借り入れしか予定されていないケースでは、根抵当権ではなく抵当権を設定します。

2.抵当権付き不動産を売却するリスク

住宅ローンや不動産投資用ローンを完済する前に不動産を売却したいというケースがあります。

急な資金需要が生じたときや、不動産相場が急上昇しており利益確定したいというときが典型的です。また、住宅ローンの場合は家族の事情の変化による住替えもあります。

ローンの完済前は不動産に抵当権が付いたままですが、抵当権付きの不動産を売却すること自体は可能です。

ただし、不動産の引き渡し前に売主側でローンを完済して、抵当権設定登記の抹消をするよう求められることが一般的です。

2-1.抵当権は不動産に随伴する

そもそも、抵当権付きの不動産が売却されると、それに伴って抵当権の負担もまた新しい不動産の所有者に移転します。

これが何を意味するかというと、新しい不動産の所有者が自分の不動産で元の債務者(元の所有者)の債務を担保するということです。

仮に元の債務者が債務の返済がせず抵当権が実行されると、新しい所有者は不動産の所有権を失うリスクがあるのです。

2-2.引き渡し前に抵当権は抹消する

上で述べたようなリスクがあるため、不動産の買主として通常は抵当権付き不動産の購入をためらいます。

仮に抵当権付きで不動産を購入するとしても、不動産の評価額から抵当権が担保する債務の金額相当分を差し引いて売買代金を決めるべきでしょう。

ただし、そうなると今度は売買代金がゼロに近くなる可能性もあり売主としては売却するメリットがなくなります。

このような事情があるため、抵当権付きの不動産を売却するときには、売買契約後、引き渡し前に売主の責任でローンを完済して抵当権設定登記を抹消する手続きを求められることが通常です。

したがって、抵当権付きの不動産を売却する際には、引き渡し前にローンを完済できるかが重要です。

事前にローンを借りている金融機関に事情を説明して、ローン残高や繰り上げ返済手数料などを確認しておく必要があります。

3.不動産の抵当権設定登記を抹消する方法

抵当権はあくまでも特定の債務を担保するための権利です。したがって、ローンの完済によって債務が消滅すれば、抵当権も当然に消滅します。

3-1.抵当権抹消手続きが必要

注意しなければならないのは、抵当権という権利自体が消滅しても、抵当権設定登記は自動的に抹消されるわけではないという点です。

法務局としては債務が完済されたか否かは知り得ない事項です。

したがって、抵当権を設定した債務者と金融機関等の債権者が「債務を完済したので抵当権を抹消してほしい」と法務局に申請をする必要があります。

抵当権設定登記の抹消については、通常はローンを完済すると金融機関から手続きに必要な書類が送られてきます。この書類を使って、債務者自身で法務局に抵当権設定登記を抹消するための申請をすることになります。

3-2.抵当権抹消手続きにかかる費用

抵当権抹消手続きには、不動産1個について1,000円の登録免許税が必要です。

なお、不動産を数えるとき、土地と建物は別で扱うため、1つの土地の上に建物が1つ建っているというケースでは不動産の個数は2個となります。

また土地は、物理的には一つの土地に見えても不動産登記簿上は複数に分かれていることがあります。

この場合は不動産の個数はその分増えるため、必ず事前に対象となる不動産の不動産登記情報を確認しておきましょう。

なお、抵当権設定登記の抹消は、所有権移転登記などと比較すると簡単といわれています。

このため、自分で手続きをする人も多いようです。

ただ、仕事などで忙しいようであれば司法書士への依頼も検討するとよいでしょう。司法書士に抵当権設定登記の抹消を依頼する際の手数料は10,000円から20,000円程度が相場です。

3-3.引き渡しまでのスケジュールを立てる

不動産の売買において抵当権抹消手続きが引き渡しの条件となっている場合には、手続きにかかる期間も想定しつつ引き渡しの期日を決める必要があります。

いずれにしても段取りよく手続きを進める必要があるため、事前にスケジュールを立てておくことが大切です。

4.まとめ

不動産価格が右肩上がりに上昇している局面では、住宅ローンや不動産投資用ローンが残っていても売却をしたいという方が増えます。

不動産の売買代金でローンを支払ったとしても利益が残る可能性が高いためです。

また、最近は数年後に売却することを視野にいれて自宅用の不動産を購入する人もいます。

ローン完済前の抵当権付きの不動産は売却できないわけではありません。ただし、上でも説明したように、売却時にローンを完済することが条件とされます。

したがって、事前にローンの残高などを確認して売買代金をどの程度に設定すれば利益が出るか(ローンを完済できるか)を把握しておくとよいでしょう。

また、不動産の売却時には売却益に対して所得税や住民税が課税されます。したがって、ローンの返済費用だけでなく税金も考慮して売買価格を決定することが大切です。


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