相続税の配偶者控除とは?子どもの負担増にも注意

 

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相続税は高額というイメージがありますが、実際には節税につながる様々な特例が用意されています。

なかでも、相続税の「配偶者控除」と呼ばれる特例は最低でも1億6,000万円の控除が認められるため、非常に大きな節税効果があります。

しかしながら、相続税の配偶者控除を過度に利用してしまうと、その配偶者が亡くなった際の二次相続において多額の相続税が課される場合もあるのです。

そこで、相続税の配偶者控除の概要や適用を受けるための要件、必要な手続きについて解説します。

なお、以下の解説は令和2年4月1日時点の税制に基づくものです。 税制については頻繁な改正があるため、実際に制度の利用を検討する際には最新情報をご確認ください。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 相続税の配偶者控除は1億6,000万円又は配偶者の法定相続分相当額のいずれか高い方まで受けられる
  • 配偶者控除を過度に利用すると二次相続における相続税負担が重くなることも
  • 原則、相続税の申告期限までに相続税の申告書などへ税額軽減の明細の記載が必要

1.相続税における配偶者控除とは

相続税の大幅な節税が見込める配偶者控除とはどのような制度なのでしょうか。 適用されるための要件などについて説明します。

1-1.相続税の配偶者控除の金額

相続税の配偶者控除は、正式には「配偶者の税額の軽減」と呼ばれる制度です。

相続税における「配偶者の税額の軽減」とは、被相続人の配偶者が相続によって得た遺産額が、次の2つのうち、いずれか多い金額まで配偶者に相続税がかからない、という制度です。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

1-2.配偶者の法定相続分とは

配偶者控除の対象になる2つの基準となる金額のうち「配偶者の法定相続分相当額」を知るためには、民法上定められた配偶者の法定相続分の計算方法を理解しておく必要があります。

配偶者の法定相続分の決め方

民法上の配偶者の法定相続分は次の表のとおりです。

  配偶者以外の法定相続人 配偶者の法定相続分
第1順位 子ども、孫などの直系卑属 2分の1
第2順位 親、祖父母などの直系尊属 3分の2
第3順位 兄弟姉妹 4分の3

配偶者の法定相続分は他に法定相続人となる親族の種類によって異なります。

上の表にあるように、相続人として配偶者以外に被相続人の子どもや孫などの直系卑属がいる場合、配偶者以外の他の親族は法定相続人となりません(第1順位)。

被相続人に子どもや孫がいない場合、親、祖父母などの直系尊属が配偶者と並んで法定相続人になります(第2順位)。

被相続人に直系卑属も直系尊属もいない場合にはじめて、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります(第3順位)。

配偶者控除の計算例

被相続人である夫が10億円の資産を保有しており、被相続人には妻と子ども1人がいるというケースで考えてみましょう。

このケースでは、上の配偶者の法定相続分に関する表における第1順位の相続にあたります。

妻と子の相続分はそれぞれ2分の1ずつであるため、妻の法定相続分相当額は5億円(10億円の2分の1)です。

控除額は1億6,000万円と法定相続分のいずれか大きい方であるところ、以下のようになるため、妻は配偶者の法定相続分相当額である5億円まで配偶者控除が受けられます。

1億6,000万円 < 5億円

この事例において妻が法定相続分に従った遺産分割を行うのであれば、相続税の支払いが不要です。

妻が遺産10億円のすべてを単独で相続する場合であっても、配偶者控除額の5億円分を超える部分(5億円)にのみ相続税が課税されます。

1-3.相続税の配偶者控除の適用を受けるための要件

相続税の配偶者控除を受けるには、いくつか前提となる要件があります。

まず、相続税の配偶者控除は法律上の婚姻関係にある配偶者のみが対象となります。

事実婚など内縁関係にある配偶者には適用されません。

また、相続税の配偶者控除を受ける際、相続財産を仮装又は隠蔽していないことが前提となります。

仮装又は隠蔽された財産については配偶者控除の対象となりません。

遺産分割などの期限も定められているため注意が必要です。

原則として、相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割などが完了していない財産については制度の対象外となります。

相続税の配偶者控除では、配偶者が遺産分割などによって「現実に取得した財産」を基礎にして税額が軽減されるためです。

ただし、必要な手続きを踏めば、相続税の申告期限後の遺産分割についても相続税の配偶者控除を受けることができます。

2.配偶者控除の使い方によっては子どもに負担増

相続税の配偶者控除額は最低でも1億6,000万円であり、節税効果が非常に大きいといえます。

このため、相続財産をできるだけ配偶者に相続させた方が相続税の節税になる、という考えがあるかもしれません。

しかし、配偶者控除を利用して配偶者に過度に財産を集中させると、その配偶者が亡くなった際の二次相続における相続税負担が重くなる可能性があることに注意が必要です。

例えば、配偶者控除を利用して大半の財産を相続した配偶者が、生存中に財産をほとんど使わなかった場合、その配偶者が亡くなった際の相続で多額の財産が残ります。

最初の相続で相続税の節税に成功したかに見えても、結局はその配偶者の財産を相続する子ども達の代において、多額の相続税の負担が生じてしまうのです。

このような結果になる背景として、以下の表のように相続税が累進課税であるという事情があります。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

出典:国税庁HP「相続税の税率」平成27年1月1日以後の場合における速算表

累進課税であるため、1回に受け継ぐ相続財産の規模が大きいと、その分税率が上がるのです。

最初の相続の段階で配偶者に遺産を集中させるのではなく、あえて子ども達にも一部の財産を相続させて財産の移転時期を分散させておいたほうが、最終的に負担する相続税の総額は少なくなる可能性があります。

とくに相続財産が数億以上の規模となる場合、わずかな税率の違いでも支払うべき相続税の金額は大きく変わってきます。

このため、相続財産が多額になる場合、税理士などの専門家に依頼してどのように相続すると節税効果が高いのか、事前にシミュレーションをしておくとよいでしょう。

3.相続税の配偶者控除を利用するための手続き

実際に相続税の配偶者控除を利用する際、どのような手続きを踏む必要があるか説明します。

相続税の申告期限までに遺産分割が完了するかそうでないかによって必要となる手続きが異なります。

3-1.相続税の申告期限までに遺産分割が完了する場合

相続税の申告期限である、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に遺産分割が完了する場合、相続税の申告書又は更正請求書に税額軽減の明細を記載することで足ります。

その際には配偶者が実際に取得した財産がわかるように戸籍謄本等、遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなどの書類も合わせて提出が必要です。

相続発生後は遺産分割以外にも様々な手続きが必要なため、実際にはあっという間に相続税の申告期限が到来してしまいます。

このため、相続税の申告期限までに遺産分割が完了する場合というのは、遺言どおりに遺産を分配するケースや相続人が少ないケースなど、相続人の間に相続に関する争いが一切存在していない場合に限定されるというのが実情です。

3-2.相続税の申告期限までに遺産分割が完了しない場合

相続争いがある場合などには、遺産分割が完了するまでに数年かかることも珍しくありません。

このような場合に相続税の配偶者控除を受けるためには、相続税の申告期限内に相続税申告書や更正請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」の添付が必要です。

そのうえで、相続税の申告期限から3年以内に現実に遺産分割が完了すれば、相続税の配偶者控除の対象とすることができます。

このほか、遺産分割について調停や訴訟などで相続税の申告期限後3年以内に遺産分割ができない特別の事情がある場合、税務署長の承認を受けて一定の期間内に遺産分割をすれば、相続税の配偶者控除が適用されます。

いずれの場合でも、遺産分割が完了したら、分割の成立日の翌日から4か月以内に相続税に関する更正請求が必要です。

4.まとめ

相続税の配偶者控除という制度は、遺された配偶者の生活を維持するうえで非常に重要な制度です。

配偶者控除の適用には、相続税申告の期限までに手続きを行わなければならないため、相続発生後の早い段階で適用の有無を確認しておくとよいでしょう。

もっとも、相続人が配偶者1人だけであれば配偶者控除の適用を受けることにあまり問題ありませんが、二次相続が発生する可能性が高い場合、どの程度の控除を受けるべきか慎重に検討することが必要です。

被相続人が不動産投資や事業経営などによって多額の資産を有している場合、相続税申告の手続きと合わせて相続税の配偶者控除をどの程度利用した方がよいか、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

なお、不動産を保有している人が生前に相続税を節約するための方法としては、アパート投資という方法もあります。

不動産の相続について検討している方はこちらの記事も参考にしてみてください。


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