地主の土地活用としてのアパート投資について解説

 

この記事の目次

相続税法の改正によって平成27年1月1日以降は相続税の基礎控除が引き下げられ、相続税の対象となる地主が増えてきました。

複数の遊休地を持っている地主のもとには、相続税対策や土地活用として、アパート投資の勧誘が頻繁にあるのではないでしょうか。

地主がアパート投資を行う場合、失敗すると先祖代々の土地を失うリスクもあります。

そこで、この記事は地主によるアパート投資の特徴や注意点について解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • アパート投資では一棟を所有できるため、賃貸管理が合理化しやすいメリットがある
  • 土地上に賃貸アパートが建っていると相続税評価額が大きく下がり相続税対策になる
  • アパート建築資金を金融機関から借り入れる場合には、抵当権が実行されないように注意

1.アパート投資とは何か

「アパート投資」という言葉は、厳密に定義された用語ではありません。

一般的に「アパート投資」とは 、「区分マンション投資」とも呼ばれるワンルームマンションなどの一部屋を区分所有する不動産投資の手法と区別して、アパート一棟を丸ごと所有する不動産投資の手法を指すことが多いようです。

アパート投資は、アパート経営などと呼ばれることがあるように、建物全体の管理も必要となるため投資というよりも事業としての側面が強くなります。

アパート投資では最近、個人の不動産投資家がアパートやマンションの一棟全体を保有して投資対象とするケースが増えてきました。

もっとも、従来から行われてきたアパート投資はむしろ、地主が元々所有している土地を有効活用する目的や相続対策のために、アパートを建設して不動産投資を始めること でした。

そこで以下では、地主が行う土地活用としてのアパート投資を念頭において説明します。

2.区分マンション投資とアパート投資の違い

区分マンション投資とアパート投資は、住居用の物件を投資対象とするという点では同じですが、違いも多くあります。

区分マンション投資は、投資対象がワンルームマンションであることが大半です。このようにワンルームマンションへ投資することを特に「ワンルーム投資」などといいます。

ワンルーム投資であれば不動産投資としては比較的少ない資金から始めることができます。また、資金に余裕があれば立地や建物のタイプが異なるワンルームマンションを複数保有することによって、 リスク分散を図ることも容易です。

このため、ワンルーム投資を始めとする区分マンション投資は、少ない資金で気軽に不動産投資を始めたいサラリーマンなどに人気があります。

これに対し、地主がアパート投資をする場合には、一棟を丸ごと建設するコストがかかるため初期費用が高額になり ます。

また、建物の規模や構造にもよりますが、建設工事に相当長期間かかりますので、投資した資金をすぐに回収できるわけでもありません。したがって、アパート投資をする場合には、ある程度の資金力が必要となります。

もっとも、アパート投資の場合には、一棟を丸ごと所有することができるため 、アパートを一体的に管理できるメリットがあります。

例えば、管理コストを削減するために管理会社を変更したいというときでも、 所有者の意思で簡単に実行することが可能です。

また、一般的に不動産投資において、建物の 経年劣化によって賃料収入が落ち込む可能性がある場合には、先手を打って修繕やリニューアルをすることが重要です。

このような収益改善のための施策をしたい場合にアパート所有者の一存で行うことができるのは、アパート投資ならではといえます。

3.地主がアパート投資をする理由

地主が土地活用のためアパート投資を始めるきっかけとして増えているのが相続税対策です。

なぜなら土地を相続する場合、更地や駐車場などのままであるよりも、賃貸アパートが建っている方が土地の相続税評価が下がり、納税額が少なくなるためです。

土地が更地や駐車場である場合、土地の相続税評価は基本的に国税庁が公表している路線価にしたがって計算されます。

具体的には、路線価に地積をかけ合わせて算出します。これが「自用地」としての相続税評価です 。

これに対し、土地上に賃貸アパートが建っている場合、その土地は「貸家建付地 」として相続税評価額が下がります。貸家建付地の評価額は、次のとおり計算されます。

貸付建付地の価額 = 自用地としての価額 – 自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

借地権割合や借地権割合は、国税庁が公表している路線価図や評価倍率表に記載されています。

賃貸割合は、詳しい計算式は割愛しますが、土地上に建っている賃貸アパートの床面積のうち、賃貸されている部分の床面積の割合です。

以上から、土地上に賃貸アパートが建っている場合には、更地などの場合に適用される自用地としての評価額と比較して相続税評価額が大きく下がります。

これに加え、相続税に関しては、被相続人が死亡した時点で存在した債務を遺産総額から差し引くことができます。これを「債務控除 」といい、遺産総額が減額されると、その分相続税の金額を抑えられます。

アパート建設資金を金融機関等から借り入れた場合には、借入金の残高を遺産総額から債務控除することで相続税対策が可能となるのです。

4.地主がアパート投資をする際の注意点

地主の場合、土地をすでに所有しているため、アパート投資を始めるときに必要なコストは建設費のみです。したがって、地主ではない個人投資家がアパート投資を始めるケースと比較すると参入しやすい利点があります。

ただし、地主がアパート投資をする場合にもリスクは付きものです。そこで、次に、地主がアパート投資をする際のリスクや注意点について説明します。

4-1.キャッシュフローに注意

地主のアパート投資に限ったことではありませんが、不動産投資では実際に入居者がつくのか、どの程度の賃料を得られ るのか、といったことは投資を始めてみないと正確にはわからないものです。

特に、相続対策のため借金をしてアパート投資を始めた場合、空室が続くなどの事情により想定した収益が上がらなければ、かえって家計を圧迫することにもなりかねないことを理解しておく必要があるでしょう。

4-2.抵当権の実行で土地を失うことも

都市部や都市近郊のエリアにおいては、建物が建っていない土地自体が非常に希少です。このため、農地や遊休地を所有する地主のもとにはアパート投資による土地活用の話が多く舞い込みます。

また、サラリーマンの不動産投資では、ワンルームマンション開発や仲介業を手掛ける不動産業者が投資を勧誘することが比較的よくみられますが、地主に対して土地活用を持ちかけるのは不動産業者だけではないという特徴もあります。

具体的には、地域の信用金庫や銀行などの金融機関が積極的に地主に対する土地活用の相談に乗っているのです。また 、金融機関はすでに土地を所有している地主に対して、アパート建設のための融資を積極的に行う傾向にあります。

金融機関からアパート建設資金を借り入れる場合には、上で説明したキャッシュフロー以外にも抵当権の存在に注意が必要です 。

地主がアパートを建設するために金融機関から融資を受ける場合、通常は、アパートの建設用地とアパートの建物自体に金融機関の抵当権が設定されます。

抵当権は、金融機関からの借り入れを担保するためのものです。したがって、空室が埋まらないなどの事情によって想定外にアパート投資の収益が上がらず、金融機関への返済が滞った場合、金融機関は抵当権を実行できます。

金融機関が抵当権を実行すると、抵当権が設定された不動産は競売により第三者の所有物となり、 競売による売却代金がローンの残債務へ充当されます。

このため、地主が金融機関からのローンを組んでアパート投資に取り組む場合、アパート経営がうまくいかずにローンの返済が滞ることになれば、相続税対策どころか抵当権が実行されて「先祖代々の土地」を失う可能性があることは知っておく必要があるでしょう。

地主と呼ばれる方には、先代から受け継いだ土地を次の代に引き継ぐことに強い思い入れを持っている方も多いです。そのため、 安易にアパート投資に手を出して土地を失うことになれば大きな後悔を引きずることにもなりかねません。

4-3.サブリース契約には問題が多い

特に、アパート投資を行うのが初めてという場合には、金融機関や不動産業者の話を鵜呑みにせずに自分自身でも収支の計算をするべきです。

以前、地主のアパート投資では業者が「賃料を保証する」などと謳うサブリース契約がよくありました。しかし、サブリースには多くの問題点があることが知られてきています。「家賃保証」という言葉があっても安心せず、注意深く検討することが大切です。

5.まとめ

地主がアパート投資を始める際にも、一般的な不動産投資と同様に注意すべき点が多くあります。安定収入を得るために良かれと思って始めたアパート投資によって、土地や建物を失うリスクがあることはよく理解しておく必要があるでしょう 。

また、その土地に長く住み地域に貢献してきた地主は、一般的に地元の金融機関からの信用が高いので比較的良い条件でローンを組めることがあります。しかし、借り入れをする場合には、必ず事前に賃貸経営の収支のシミュレーションをしておくことが必要です 。


前へ

本当に必要?種類別に再生可能エネルギーの特徴を解説

次へ

複利運用は本当にメリットばかり?メリット・デメリットと具体的なやり方を解説