家賃滞納が発生したらどうする?強制退去の進め方と注意点

 

この記事の目次

不動産投資において非常に頭の痛い問題が家賃の滞納です。

家賃滞納が継続し、そのうえ退去もしないという状況になれば、賃貸人の損失はどんどん積み重なってしまいます。

特に不動産投資用ローンを組んでいる場合には家賃が入金されなくても毎月の返済が発生するため、資金ショートするリスクもあります。

このため、家賃滞納が発生したらすぐに法的手続きを視野に入れて対応していく必要があるでしょう。

そこで不動産オーナー向けに、家賃滞納が発生した場合の法的手続きの進め方や、賃貸人としてやってはいけないことなどを詳しく説明します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 通常、1回の家賃滞納だけでは強制退去が認められない
  • 賃貸人が家賃滞納者の部屋の鍵を勝手に変えることは違法行為である
  • 夜逃げなどで入居者が行方不明の場合、判決を取得した後さらに強制執行の手続きが必要なことも

1.家賃滞納で強制退去させられるか?

入居者が家賃を滞納した場合、通常はすぐに強制退去させることは困難です。

それでは、どのような条件を満たせば強制退去が認められるのでしょうか。

1-1.「信頼関係の破壊」がないと強制退去できない

賃貸借契約とは、賃貸人が不動産を賃借人に使用させ、その対価として賃借人が賃料を支払うことを内容とする契約をいいます。

賃貸借契約において、賃料の支払いは契約の根幹をなす「義務」です。

そうだとすれば、家賃の支払が一回でも遅れればすぐに賃貸借契約を解除し、強制退去ができるようにも思われます。

しかし、裁判所は家賃の滞納があっても「信頼関係を破壊する程度に至らない場合」には契約解除が認められないと判断します。

問題は「信頼関係を破壊する程度」に至るのはどのような場合であるかです。

過去の裁判例では賃料滞納の状況、期間、賃借人の態度、賃料滞納に至った経緯などを総合的に考慮するとされています。

不動産業界では一般的に、家賃滞納が3ヶ月以上継続すれば「信頼関係を破壊する程度」に至ったとして、賃貸借契約の解除ができるといわれています。

しかし、実際には家賃滞納3ヶ月は目安に過ぎません。

賃借人の態度などが悪質であれば、3ヶ月未満の家賃滞納であっても強制退去が認められる事例はあります。

例えば、入居してから一度も賃料の支払いがない場合や、明確に支払いを拒絶しているような場合などです。

他方で、家賃滞納に至った経緯や賃借人の態度などに酌むべき点があれば、家賃滞納が3ヶ月以上であっても強制退去が認められない可能性もあります。

それでは、賃貸借契約書に「家賃滞納が1回でも発生すれば催告なしに契約解除ができる」と明確に定められていた場合はどうでしょうか。

なお「催告」とは、滞納後に再度行う支払い請求のことです。

結論から言えば、このような契約条項が定められていたとしても、裁判所は家賃滞納による強制退去を認めるとは限りません。

過去の判例では、契約解除にあたり「催告をしなくても不合理と認められないような事情が存する場合に限り」このような契約条項に基づく強制退去が可能になる、としています。

家賃滞納による強制退去がここまで制限されているのは、物件の賃貸が賃借人にとって生活の基盤であることが多く、賃借人を保護すべき要請が高いためであると考えられています。

1-2.無理に強制退去させるとどうなる?

いくら入居者を保護する必要があるといっても、ローンを組んで不動産投資を行っているケースでは、家賃滞納をする入居者は早めに退去してもらいたいのが本音でしょう。

しかし、無理に入居者を強制退去させると、賃貸人側の責任を問われる可能性が高いため注意が必要です。

以前、賃貸人や不動産管理会社が、家賃滞納者に無断で玄関の鍵を変え、滞納した家賃が支払われるまで賃貸物件の室内に出入りできないようにする手口が一部で行われていました。

しかし、これは違法です。

賃貸借契約が存続している以上、家賃滞納があったとしても、入居者には部屋を使用する権利があります。

賃貸人が自分の権利を実現するために法的手段によらず、勝手に鍵を変えるなどで入居者の権利を侵害することは「自力救済」と呼ばれます。

しかしながら、日本の法律は「自力救済」を認めていません。

自分の権利を実現したいのであれば、あくまでも裁判など法的な手続きを踏まなければならない、というのがルールなのです。

したがって、家賃滞納が発生しているからといって、賃貸人が法的な手続きによらずに勝手に部屋の鍵を変えることは違法なのです。

さらには、鍵を変えたことによって入居者に損害が発生すると、反対に賃貸人が入居者から損害賠償請求を受けるリスクもあります。

これと似た問題として不動産の賃貸でよく起こるのが、賃貸人が賃貸している部屋にある入居者の私物を勝手に処分するケースです。

典型的なのは、家賃滞納をした入居者と連絡が取れなくなり、部屋にも戻っていない「夜逃げ」と思われる場合です。

賃貸人としては早く滞納者の私物を撤去し、新しい入居者を入れたいという切実な考えがあります。

しかし、この場合でも入居者の同意のない状況で勝手に私物を処分すると、後から損害賠償請求を受けることがあります。

近年では私物の撤去について、賃貸契約書にあらかじめ「連絡不能の場合などに賃貸人が残置物を処分できる」との条項を入れることが増えてきました。

もっとも、このような条項があっても、裁判所は賃貸人による私物の撤去を「違法」と判断するケースがあるため、細心の注意が必要です。

2.家賃滞納から強制退去までの手順

実際に家賃滞納が発生した場合、賃貸人が責任を問われないためにも、法律にしたがって強制退去の手続きを行うことが大切です。

以下では、強制退去までの基本的な手順を、交渉による解決と裁判による解決の2つに分けて説明します。

2-1.交渉による解決

交渉による解決方法は以下のとおりです。

  1. 入居者に電話で連絡
  2. 入居者へ通知書を送付
  3. 退去や滞納家賃の支払いについて合意書作成

電話連絡

家賃滞納が発生した場合、まず賃貸人または管理会社がすべきことは入居者に電話をして状況を確認することです。

家賃の支払いがなかった理由が入居者のミスで、すぐに家賃の支払いが受けられるようであれば、強制退去まで行う必要がないことがほとんどでしょう。

反対に、入居者と連絡がつかないとか、連絡はついたものの家賃の支払いが難しいようであれば、賃貸借契約の解除が選択肢の一つとなります。

入居者と連絡がつかずに家賃滞納が続く状況であれば、連帯保証人に連絡して家賃の支払いを求めることもあります。

ただし、連絡がつかない場合に入居者の勤務先に連絡することはクレームになる可能性が髙いため、基本的には行わない方がよいでしょう。

書面の送付

家賃滞納が解消しない場合、強制退去を視野に入れて手続きを進める必要があります。

入居者から賃貸借契約の解除の有効性について争われた場合には裁判になることもあるため、基本的にはすべてのやりとりについて裁判の証拠となるよう、書面を残すことがポイントです。

また、家賃滞納により賃貸借契約を解除するためには、滞納発生後に改めて支払いを求める催告を行うことが要件の一つとなっています。

強制退去を進める際に証拠とするため、催告をした事実を書面で残すことが不可欠です。

このため、入居者に対し、電話連絡をすると同時に催告の書面も送付しておくとよいでしょう。

この催告の書面は、毎回の滞納発生ごとに送付する必要があります。

強制退去との関係では、催告の書面が相手に到着していることが必要です。

このため、賃貸人側が書面の到達を証明できるように、配達記録付きの郵便で書面を送ると安心でしょう。

さらに、入居者と全く連絡がつかないなど裁判で強制退去を求める可能性が極めて高いケースでは、配達証明付きの内容証明郵便により書面を送るのが確実です。

合意書の作成

入居者が滞納した家賃を支払う意思がある場合、滞納分を含めた今後の支払い計画を作成して合意書にします。

一方、入居者が退去する場合でも滞納分の家賃の支払いはもちろん受けられるため、残金の支払方法や退去日などを記載した合意書を作成します。

2-2.裁判による解決

入居者と連絡が取れないようなケースでは、家賃滞納が発生した時点で裁判を視野に入れる必要があります。

裁判による解決の手順は次のとおりです。

  1. 家賃の支払い請求と解除の通知を送付
  2. 訴訟を提起
  3. 強制執行(入居者が明渡しをしない場合のみ)

裁判前の通知

家賃滞納が2ヶ月続いた場合には、基本的にすぐ裁判を起こすための準備を始めた方がよいでしょう。

裁判を起こす前には必ず、すべての家賃滞納について催告を行ったうえで、賃貸借契約を解除する旨を記載した通知書を送付します。

これらの書面は裁判で証拠として利用するため、配達証明付きの内容証明郵便により行います。

また、入居者への通知とあわせて、連帯保証人に対しても同様の通知を送付しておきましょう。

訴訟提起

裁判前に督促と契約解除の通知を送付したにもかかわらず、入居者と連絡が取れないとか家賃滞納の解消について合意が得られなければ、滞納家賃の支払いと賃貸物件の明け渡しを求める裁判を起こします。

入居者と連絡が取れていないケースでは、裁判に相手が出頭しなければ強制退去ができないのではないかと不安になるかもしれません。

しかし、裁判では訴えられた相手(被告)が出頭しなければ、基本的には訴えた側(原告)の言い分どおりの判決が出ることになります。

入居者が裁判に出頭しないことが、賃貸人側の不利益になることはありません。

なお、裁判所に訴訟を提起する際には手数料がかかります。

この手数料は収入印紙により納付し、金額については不動産の価額によって異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

強制執行

裁判所が賃貸人側の言い分を認める判決を出した後、入居者が自分の意思で私物などを運び出して物件から退去すれば終了です。

ただし、夜逃げで入居者が所在不明となっているようなケースでは、入居者自ら私物の運び出しなどを行うことを期待できません。

このような場合、判決を取得した後に、改めて「強制執行」のための法的手続きを行う必要があります。

明け渡しを認める判決が出たからといって、賃貸人が自分で勝手に鍵を変えることや部屋にある入居者の私物を処分することはできないため、注意が必要です。

なお、強制執行にかかった手数料などを入居者に請求することは可能です。

ただし、賃貸人が裁判を起こすにあたり弁護士へ依頼した場合の弁護士費用について、通常は賃貸人の負担になります。

3.弁護士に強制退去を依頼するべきか

入居者の家賃滞納で強制退去を求める際に弁護士に依頼するか否かは悩ましいところです。依頼すれば安心ではありますが、弁護士費用が発生するため、賃貸人からすると赤字になる可能性が高いからです。

交渉による解決を目指す場合、弁護士に依頼せずに賃貸人本人が交渉を行うことは特に問題ありません。

しかし、裁判となると、裁判所に提出する書面の作成などに専門知識が必要となるため、弁護士に依頼することが無難ではあります。

特に注意すべきは、入居者との交渉を弁護士以外の業者に依頼することです。

弁護士法との関係で、弁護士以外の者が本人の代理人として紛争事件を取り扱うことはできないからです。

入居者が滞納した家賃の支払いを争っていないのであれば、管理会社などから通知書の送付や入居者に電話で連絡することに問題はありません。

しかし、入居者が支払いに応じない状況となった場合や明け渡しを争っている場合、管理会社が賃貸人の代わりに交渉を続けると、管理会社は弁護士法に違反したとして刑事罰の対象となります。

したがって、入居者から家賃滞納に関して反論が出ている場合、賃貸人本人が交渉を行うか、弁護士に交渉を依頼する必要があります。

4.まとめ

不動産投資において、家賃の滞納は非常にやっかいな問題です。

家賃の支払いができない場合にすぐ退去してくれるのであればまだよいのですが、支払う余裕がない入居者は行き先がないことも多いため、家賃の滞納を続けながら退去を拒否することがあります。

そのような場合に法的措置をとると、弁護士費用などで賃貸人には損失が発生する可能性はあります。

しかしながら、家賃を滞納している入居者を早めに退去させて新しい入居者を募集したほうが、長い目で見ると損失を最小限にできるため、検討することも必要でしょう。


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