不動産クラウドファンディングとは?仕組みやリスクについて解説

 

この記事の目次

クラウドファンディングという言葉を最近よく耳にするようになってきました。

さまざまな目的のプロジェクトを実現するために多数の人から少額ずつ資金を集めるのがクラウドファンディングの仕組みです。

これを不動産投資に活用するものとして、不動産クラウドファンディングというものがあります。そこで、不動産クラウドファンディングの仕組みやリスクなどについて解説します。

10秒でわかるこの記事のポイント
  • 不動産クラウドファンディングでは、実物の不動産に少額から投資ができる
  • 不動産クラウドファンディングは、平成29年の法改正をきっかけに盛んになった
  • 不動産クラウドファンディングは、運用期間中は出資した持分の現金化が困難

1.不動産クラウドファンディングとは

不動産クラウドファンディングは、最近になって登場した新しい不動産投資の手法です。

不動産クラウドファンディングでは、資金提供者(投資家)が出資した資金を利用して特定の不動産の取得及び運用を行います。

不動産の運用によって収益が上がれば、各投資家に配分されます。

不動産クラウドファンディングでは、多くの場合に1万円程度の少額から投資ができる設定となっています。小口資金から気軽に不動産投資にチャレンジできることは魅力の一つです。

2.不動産クラウドファンディングの仕組み

不動産クラウドファンディングは、規制する法律によって次のようにわけることができます。

  不動産投資ファンド
(GK-TKスキーム)
不動産特定共同事業
(1号事業)
投資対象 不動産信託受益権(みなし有価証券) 実物不動産
投資対象を取得・運用する主体 合同会社(GK) 不動産特定共同事業者
出資持分 有価証券とみなされる 有価証券ではない
適用される法律 金融商品取引法 不動産特定共同事業法

1つはGK-TKスキームという仕組みの不動産投資ファンドを利用した不動産投資手法で、不動産を取得・運用する主体は投資ファンド(合同会社)であり、投資対象は実物の不動産ではなく不動産を信託受益権化した有価証券です。

金融商品取引法により規制される仕組みであり、個人向けに販売されることは多くありません。

次に上述したGK-TKスキームによる不動産投資ファンドなどと似ているようにみえますが、法的な仕組みが異なるものに不動産特定共同事業法に基づくファンドがあります。

不動産特定共同事業法に基づく不動産ファンドにおいて事業者が取得する対象は有価証券化されていない実物の不動産です。

現在、個人向けに販売されている不動産クラウドファンディングはこの仕組みを用いたものが一般的です。

不動産特定共同事業では、不動産信託受益権に投資をする投資ファンドにおいて必要であった手続コスト(不動産を不動産信託受益権という有価証券にかえることで要するコスト)を削減できるため、低コストでの運用が可能になります。

ここでは、不動産特定共同事業法に基づく不動産クラウドファンディングについて解説します。

2-1.不動産小口化投資商品との違い

これまでも不動産特定共同事業法に基づき実物の不動産を小口化して投資する手法として不動産の小口化投資商品がありました。

不動産の小口化投資商品と不動産クラウドファンディングの大きな違いは、不動産クラウドファンディングはインターネットを利用した投資手法で、より少額の資金で投資ができるようになったことです。

なお、不動産クラウドファンディングは不動産の小口化投資商品の一つといえます。

以下の記事では不動産の小口投資の仕組みについてくわしく解説しています。

不動産小口投資には相続税や贈与税などの節税商品として販売されるものもあります。

不動産小口投資と不動産クラウドファンディングの違いをもっとくわしく知りたい方はあわせてお読みください。

2-2.不動産特定共同事業法の改正

不動産クラウドファンディングが拡大するきっかけとなった平成29年の不動産特定共同事業法の改正について解説します。

平成29年の不動産特定共同事業法の改正により、不動産クラウドファンディング市場が整備されました。

この不動産特定共同事業法の改正自体、少額から不動産投資に参加できる機会を創出し、不動産開発に対する投資意欲を高めることを目的としたものでした。改正事項のうち、不動産クラウドファンディングの拡大を後押ししたといえるのは電子取引業務の整備です。

不動産特定共同事業法を管轄する国土交通省は、国内のクラウドファンディングの市場が順調に伸びている状況を受け、投資家に交付する契約締結前の書面等について、インターネット上での手続を可能とする規定を整備しました。これを電子取引業務といいます。

これにより、不動産クラウドファンディング業者が不動産特定共同事業の許可を受ければ、不特定多数の投資家から出資を受ける際にインターネット上で手続を完結できるようになりました。

上でも説明した通り、不動産クラウドファンディングは、投資家1人当たり1万円という少額での投資が可能となっています。

このように、小口の投資家を受け入れることができるようになったのも、契約締結前の書面等の交付をインターネット上で行うことが可能となり管理コストが大幅に削減されたことが大きな理由の一つと考えられます。

また、平成31年4月15日付で国土交通省は、平成29年改正により認められた電子取引業務として自らのホームページ等で契約の締結の申込みをさせる事業者が整備すべき業務管理体制を明確化するガイドラインを公表しています。

これによって、実際に不動産クラウドファンディングにおいて投資家からインターネットを通じて資金を集める際に事業者に求められる具体的対応が明確になったことも、不動産特定共同事業法を活用した不動産クラウドファンディングが拡大する後押しになったものといえます。

2-3.優先劣後方式の採用によるリスク低減

不動産クラウドファンディングは、投資家のリスク低減のため優先劣後方式が採用されていることが通常です。

優先劣後方式では、まず、不動産クラウドファンディングの出資総額を優先出資と劣後出資の2つに分けます。

その上で、事業者が、不動産の運用による損失(不動産評価額下落分)を先に負担する劣後出資を行います。投資家は、劣後出資の割合を超えて損失が出た場合に限り損失を負担する優先出資となります。

これにより、投資家が不動産の運用により生じた損失を負うリスクが低減されます。

2-4.J-REIT等との違い

不動産投資の手法として、もっとも有名なものがJ-REITです。J-REITと不動産クラウドファンディングの違いは次のような点にあります。

第一に、J-REITは市場に上場しているので、資金需要が発生した際に現金化がしやすいといえます。これに対し、不動産クラウドファンディグでは払い戻しや第三者への持分の売却が難しく、現金化は基本的にできません。

第二に、J-REITは取得する不動産を運用会社が判断します。投資家はJ-REITで新たに取得する不動産を選択する余地はありません。

これに対し、不動産クラウドファンディングは特定の物件ごとに事業が実施されるため、投資家は投資対象となる不動産を把握した上で、出資先を選定できます。

第三に、J-REITは上場しているため、株式市場などの市況に基準価格が連動する傾向にあります。

これに対し、不動産クラウドファンディングは市場の影響を受ける可能性は低いため、純粋に事業そのものの成果に応じて投資家は利益を得ることができます。

J-REIT 不動産クラウドファンディング
市場での売却によりいつでも現金化できる 運用期間中の現金化は困難
投資家は不動産選定に関与できない 投資対象不動産を選定できる
株式市場などの影響を受ける 株式市場などの影響を受ける可能性は低い

3.不動産クラウドファンディングのメリット

不動産クラウドファンディングは、他の不動産投資手法と比較して次のようなメリットがあります。

3-1.少額から投資が可能

上でも説明したとおり、不動産クラウドファンディングは最低投資額が1万円程度に設定されていることが多いため、投資家としては少額から気軽な投資が可能です。

また、最低投資額が少額であるため、投資対象の条件が異なる複数の不動産クラウドファンディングに投資することによって、リスク回避のための分散投資が可能となります。

3-2.実物不動産を保有する際の手間がかからない

実物の不動産を投資家が直接保有する場合、当該不動産を管理するための手間やコストがかかります。

例えば、入居者が家賃を滞納した場合には、物件の所有者である不動産投資家自身が督促や明渡し等の手続を行う必要があります。

不動産管理を管理会社に依頼するとしても、物件の所有者としてある程度の意思決定は必要となるため、不動産クラウドファンディングと比較すると管理にかかる手間は非常に大きいものとなります。

このほか、実物不動産を保有する場合、物件の管理が不十分であったことにより、入居者や通行人等の第三者が怪我をしたような場合には、物件の所有者である投資家自身が損害賠償請求を求められるリスクもあります。

3-3.投資対象の物件を選択できる

不動産クラウドファンディングでは、投資対象となる不動産ごとにクラウドファンディングが実施されます。

したがって、投資したい物件を選定して投資することができます。

これに対し、上でも説明したように、J-REITではどの不動産に投資するかは運用会社に一任されますので、投資家の意図しない物件に投資されることがあります。

4.不動産クラウドファンディングのリスク

不動産クラウドファンディングには以上のようなメリットがある反面、次のリスクも指摘されています。

4-1.元本割れリスク

不動産クラウドファンディングは、投資した不動産の賃料収入等から収益を得て投資家に分配がされます。

しかし、景気後退や災害等により予想外に賃料収入が低減することがあります。

賃料相場が下落すると不動産の評価額も低下しますので、投資家にとっては元本割れのリスクがあります。

ただし、元本割れのリスクは、不動産クラウドファンディングに特有のものではなく、およそ投資である以上には常に発生するリスクです。

4-2.流動性リスク

J-REITは上場投資信託であり、市場で自由に売買が可能です。他方、不動産クラウドファンディングは決められた運用期間中に事業者から投資額の払い戻しを受けることはできないことが一般的です。

このため、運用期間の満了前に現金化する必要が発生したとしても事業者から払い戻しを受けることはできません。

また、J-REITのように市場もないため、投資により得た持分を売却することも難しいと考えておくべきでしょう。

4-3.事業者の信用リスク

多くの不動産クラウドファンディングは、不動産特定共同事業の1号事業で提供されています。

1号事業では不動産特定共同事業者が投資ファンドそのものになり、GK-TKスキームでは一般的な倒産隔離が手当てされることはありません。

不動産特定共同事業者は法律によって会計監査が義務付けられていますが、兼業に関しての規制はありません。

したがって不動産特定共同事業者は不動産特定共同事業以外にも様々な事業を営むことができます。投資家にとっては、不動産特定事業者が行う不動産特定共同事業以外の事業による事業者の信用リスクを負うことになります。

匿名組合型の不動産特定共同事業(1号事業)では、事業者が破産をしたとき、出資者が事業者に有する支払請求権に優先権はなく、他の優先する債権に劣後して取り扱われることから出資者への支払いがなされないリスクがあることに注意が必要です。

不動産特定共同事業にもGK-TKスキームを用いた倒産隔離型の仕組みもありますが、この倒産隔離型の不動産特定共同事業商品は投資対象に制限があり、金融商品取引法も重畳適用されます。そのため2020年9月現在、倒産隔離型の商品はそれほど多く提供されていません。

  不動産特定共同事業
(1号事業)
倒産隔離型の不動産特定共同事業
(4号事業)
倒産隔離 不動産特定共同事業者が投資ファンドとなり、倒産隔離されない SPC(特例事業者)が投資ファンドとなり、倒産隔離される
特例投資家以外の投資家(個人投資家)から出資を受ける場合の投資対象に関する制限 制限はない 宅地の造成、建物の建設、投資対象不動産の価格の1割を超える建物の修繕や模様替に関する工事は認められない
出資持分 有価証券ではない 有価証券とみなされる
適用される法律 不動産特定共同事業法 不動産特定共同事業法
金融商品取引法

5.リスクへの対処法

不動産クラウドファンディングには以上のようなリスクがありますので、リスクへの対処法を理解しておく必要があります。

元本割れのリスクに対しては、不動産クラウドファンディングの最低投資額が少額であることを活かして分散投資をすることをおすすめします。

その他、賃料収入がどの程度得られるかは事業者の運用の巧拙にも影響されますので、不動産クラウドファンディングの事業者を慎重に選択することも重要です。

また、不動産投資全般にいえることですが、投資対象の立地などの条件は収益に直結します。

したがって、不動産クラウドファンディングの投資対象となる不動産について、どの程度の優位性があるのか投資家自身も十分に吟味することが大切です。

流動性リスクに対しては、投資した後は数年にわたり現金化できないことを踏まえて、余裕のある資金計画のもとで投資をすべきです。

他の投資とも共通しますが、基本的には余剰資金で不動産クラウドファンディングに投資することをおすすめします。

最後に、倒産隔離が手当てされていない不動産クラウドファンディングでは、商品を提供する不動産特定共同事業者の信用力に影響を受けやすいといえます。事業者の信用リスクを考慮して投資することをおすすめします。

6.まとめ

不動産クラウドファンディングは、多数の投資家から小口資金を集めて規模の大きい不動産投資を可能にする仕組みです。

もっとも、不動産クラウドファンディング自体は、まだ始まったばかりの新しい仕組みです。

したがって、現時点で想定されていないリスクが生じることも視野に入れて、慎重に投資対象を選択することが大切です。


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